連載小説
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あなただけ:2(※♂化)
「みるきー、この前怒ったんやって?」

目の前にいる菜々ちゃんが、菓子パンを頬張りながら首をかしげた。
菜々ちゃんは、私の親友で気を使わなくていい相手。
私が、ほんまは誰よりも人間関係に苦手意識を持ってるって知ってるただ1人の友達。
そりゃ、楽しい時はほんまに笑うし、自分が冷めた人間やとは思ってない。
でも、私が笑ってるのが当たり前と思ってる周りの人達に嫌気がさして。
それでもはっきり言えないのは、ただ単に私が臆病者で卑怯者やから。
皆がちやほやしてくれるこの環境に甘えてるのも事実で。
私は1つ溜息をついた。

「うん。だって、皆酷いこと言うんやもん。やっちゃったとは思ったけど。」

「……みるきーってさぁ…」

「うん?」

「山本のこと好きやろ?」

「…………っ!?!?」

この子はいきなり何を言い出すのか。
カァッと顔が赤くなる感覚。
別に、否定はしない。
やって、ほんまに好きやから。
でも、なんで知ってんの?1回も言ったことはないはずやのに。
そんな私を見て、菜々ちゃんは満足したようにもう一口菓子パンを食べた。

「バレてないとでも思ってたん?」

「そんなん…」

「みるきーは意外と分かりやすいからなぁ。山本とすれ違った時とかめっちゃ可愛い顔してたし。」

そんなつもりはなかった。
でも、誰よりも一緒におる菜々ちゃんが言うんやから間違いないんやろう。
恥ずかしい。隠してたつもりやったのに。

「でもさぁ…」

「うん…」

「山本のことバカにした子達じゃないけど、なんで山本なん?」

「……」

「確かに顔はまぁまぁかっこいい方やと思うけどな。」

顔で好きになったわけじゃない。
好きになった今では、それも好きなとこの一つやけど。

「顔とかじゃ、ないよ。」

「…ふーん?まぁ、みるきーが好きになってんからいい人なんやろうな。」

そう言った菜々ちゃんから、そっと顔を逸らす。
きっかけは、些細なことやってん。
入学式の日、朝は快晴やったのに帰る頃には土砂降りになってて。
その日はちょうど、入学祝いにママとご飯を食べに行こうって。
早く帰らなあかんかったけど、濡れるわけにもいかんくて。
困り果ててた時。

「傘、ないん?」

「え?」

いつの間にか、横に立ってた男の子。
今と違って、まだ少しだけ幼さの残る顔。
今でも、あの時のことははっきり思い出せる。
私に、少し強引に傘を押し付けた山本くんの、走り去っていく背中。
なんで傘持ってたんやろうとか、色々思ったけど。
そんなことよりも、その優しさに惚れ込んでしまった。

「あ、山本おるで。」

菜々ちゃんの言葉に、窓の外を見る。
そこには、確か小笠原くんと小谷くん、山口くんや岸野くんと笑いあってる山本くん。
そのキラキラした笑顔に、胸がキュッと締めつけられた。
15/12/20 19:09更新 / n.u
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