連載小説
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秋の1日
あれから大変だった。

病院から戻ってから、おとうさんと、連絡してかけつけた涼くんのおかあさんと、

涼くんとあたしで交番へ行き、被害届を出してきた。

その間におかあさんが、担任のサエコ先生にも連絡してた。

おフロに入ったときにはドッと疲れが出てきた。

もう明日のことなんてどうでもいい、ずっとベットにいれたらどんなにいいか、

このまま明日にならなきゃいいのに、

それでもやっぱり朝はくるんだよね、これが…

学校行ったら、きのうの事件のこと、もうみんなに知れわたっていた。

「ふうちゃん、ダイジョブだった?」

「コワかった?」

「水沢くん、かわいそう…」

緊急集会があって、校長先生が、じゅうぶん注意するようにっていってた。

けど文化祭は、予定どおり進められた。

(あたし、セリフおぼえてるんだろか…)

けれど衣装とかつけてみると(演劇部の人たちに借りた)

ケッコウそれらしくなれたりして…

「ふうちゃんキレイ!」

(ヤダー それほどでも…)

あたしはお姫さまっぽく(?)ほほえんでみせた。

涼くん、なんていうかな… そういえばぜんぜん見かけないよ どこいっちゃったんだろ 

ちなみに彼はこの劇に関しては、道具係りとかで、裏方さんに徹してる。

バンドのほうの練習かな とうとうあたしたちの出番になった。

(おちつけ おちつけ…そう、見てるヒトはみんなジャガイモよ)

てのひらに「人」って書いて飲み込んだ。

「ふうちゃんセリフ忘れたら紙に書いて見せるから」

(ハァ…)

ポンッ!肩をたたかれて、ふりかえると「涼くん!」

「ガンバッて!」

「ウン…」

(あぁあの笑顔がいいんだよなぁ)

「ふうちゃんGO!」

(よーし、このいきおいでやったるか!)

結果は… 2度ほど紙のおせわになったけど、まぁあたしとしては上出来、上出来!

「みんなおつかれ!」

「ハイハイおつかれ」

きゅうにお腹すいてきた。

「ね、あたしお腹すいちゃった」

「あたしも、もうすぐお昼だよ」

「模擬店になんかあったっけ」

「ウーンたしかヤキソバとか」

「ソレでいい、食べ行こ」

「ん、でもサ、お昼おベントでるよ」

「でもまだでしょ、あたし待てない」

「もう…」

「ネェ、涼くんのいつやるのかな」

「…たぶん2時頃からかな」

「じゃぜったい忘れないようにしなきゃ」

「うん、そうだね」

「アーンまだお腹へってる」

「ふうちゃんフトるよ、フトると涼くんに嫌われちゃうゾ」

「う…」

「なっちゃん」

「ん」

「アイス食べたい」

「ハァーヤレヤレ」

1時半に体育館に行ってみるともう、けっこうヒトでイスが埋まり始めてた。

なっちゃんと、えみちゃんと、まいちゃんとあたしで、まえから6番目の席をとることが

できて、とりあえずホッとひと安心。

「なんだかワクワクするね」

「ウンウン、どんなのかな」

「どんなんだかぜんぜん知らないね」

「ネ!ヴィジュアル系って誰かいってたよ」

「ウソォ!じゃメイクとかスゴかったりして?」

「ありかもね」

(ウソ、まさかね、ほかはどうでもいいけど、涼くんだけはヤダ。イヤまてよ、

でも彼って美少年っぽいし、いがいに… アーでもやっぱり、ヤ!)

「…でね、彼すごくカッコイイの」

「誰が?」

「だからぁ、ふうちゃん聞いてる?3年の秋本先輩!」

「ハァ」

「ふうちゃん知らないの? ブラバンの部長、女子にけっこうファン多いんだよ」

「んーそういえば何となく聞いたことあるような…」

「ダメダメ、この子の頭の中はいま、水沢くんだけだヨ」

「ヤーもう、ちがうよー」

「ダーメ、もうミエミエ!」

「なんせキミを守るためケガしてまで、助けてくれたんだもんねー」

「ステキよねー、カッコイイ!あたしが変わりたかったわー」

「もう!」

「あっホラ、もうすぐ始まるよ」

暗くなった体育館、幕が上がり、響きわたるギターの音。

(イエスタディだ…)

照明のあたった先は…ヴォーカルはあの秋本先輩(ホントだ、背高いし、あまいマスクで、

ウン、声もなんかステキだし、こりゃ女の子にもてるだろうな…)

それとあの人も、あ、あのドラムの人も見たことある。名前は知らない。

でもおなじ2年だったような… 「なんだ、みんなあんまり変わってないじゃん」

「なんかガッカリしてない?」

(涼くんやっぱりギターだったんだ、私服姿、始めて見た…)

曲が終わり、体育館中にひびく拍手と歓声。秋本さんの挨拶のあと、大好きだという

ビートルズのナンバーがいくつか続く。

(ワー じょうず!)途中、秋本さんが作詞、作曲したという曲があって、

これもけっこうイケる。

最後は、グレイとかラルクとかの曲があって、会場ノリノリ!

あっというまの40分だった。

(うーん、こりゃとても中学生とは思えないほどだわ…)

「ありがとう!この後は10分の休憩のあと、わがブラスバンド部の演奏会もあります

ので、そっちのほうもよろしくお願いします」

「よかったねー」

「みんなじょうずだねー」

「いっぱい練習したんだろうね」

「ふうちゃん、水沢くんやるねー!」

「うん、だね」

(ウン、ホントに。腕のホウタイがちょっとイタイタしいけど、やっぱ涼くん、

ちょーカッコイイ!)

「演奏会は見ないよね」

「うん。ワルイけどね」

あたしたちは体育館を出た。

「今年の文化祭よかったね」

「うん!」

「楽しかった」

「よね」

風がどこからか、キンモクセイの甘い香りを運んできた。

あたしはギターをひく涼くんのゆれる髪、やさしそうな横顔を思い出していた。
19/12/26 10:02更新 / 風香
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