「お話」20.
「『先輩……。』
窓から僅かに見える、紅い空。
教室が紅く染まる、夕暮れ時。
なぜ私はここにいるの?
私はもう、死んだはずじゃ…
そんな疑問なんて、浮かびもしなかった。
だって、もう分かってる。
これは、夢なんだ。
『齋藤、先輩……』
もう一度声にしてみる。
『どうかした?松崎さん。』
いくら問い掛けても返ることのなかった返事。
それが今は、返ってくる。
目をあげても目の前には誰もいなかった、それが日常だったのに
今は…目をあげれば先輩の笑顔が見えて。
それが、泣きだしてしまいそうなぐらいに、嬉しかった。
コツ…コツ…
先輩は私の目の前に歩み寄ってきて、
『ごめんな。』
そう、一言だけ言った先輩の顔は、身長の差のせいか、全く見えなかった。
黙ってしまった先輩を不思議に思って顔を上げれば。
先輩が、涙を流して泣いていた。
『え……?
ちょっ…先輩っ何泣いてるんですかっ!?』
人前では、決して泣かない、と。
そう言い切っていた齋藤先輩が。
私の目の前で、泣いていた。
先輩はもう一度、ごめん、と呟いて。
そして、私を静かに抱き締めた。
私の肩に頭を預けて
ただただ泣きじゃくっていた。
『ごめんな…
俺のせいで…松崎さんはっ……ぐす……。』
その姿はまるで小さな子供のようで。
愛しさがこみあげて、
何も考えずぎゅっと抱き締め返した。
もう、何したっていいじゃない。
だって、これは夢なのだから。
ただの、幸せな夢に過ぎないのだから。
もうじき、覚めてしまう、儚い夢なのだから…。
『俺はっ……
松崎さんに迷惑ばかりっ…』
ぐすぐす言って泣いている先輩。
『…らしくないんじゃないですか?』
優しく問いかける。
『…人の前では絶対に泣かないって言ってたじゃないですか』
『前言撤回。
…いいだろ。今ぐらい。』
そういって無理に笑おうとする先輩。
急に、体が重くなった。
と、先輩は私から離れて。
『もう、時間だ。ごめんな。
これ以上一緒にいたら…戻れなくなる。』
そう言って、私から離れていくように歩き始めた。
『戻れなくなるって、どこに……』
私がそう問い掛ければ。
『松崎さんが、元の世界、松崎さんの世界に戻れなくなるから。
…心配するな。
きっと、また会える。』
『先輩っ……!』
そうして、全てが白い光に包まれて、
消えた。」
窓から僅かに見える、紅い空。
教室が紅く染まる、夕暮れ時。
なぜ私はここにいるの?
私はもう、死んだはずじゃ…
そんな疑問なんて、浮かびもしなかった。
だって、もう分かってる。
これは、夢なんだ。
『齋藤、先輩……』
もう一度声にしてみる。
『どうかした?松崎さん。』
いくら問い掛けても返ることのなかった返事。
それが今は、返ってくる。
目をあげても目の前には誰もいなかった、それが日常だったのに
今は…目をあげれば先輩の笑顔が見えて。
それが、泣きだしてしまいそうなぐらいに、嬉しかった。
コツ…コツ…
先輩は私の目の前に歩み寄ってきて、
『ごめんな。』
そう、一言だけ言った先輩の顔は、身長の差のせいか、全く見えなかった。
黙ってしまった先輩を不思議に思って顔を上げれば。
先輩が、涙を流して泣いていた。
『え……?
ちょっ…先輩っ何泣いてるんですかっ!?』
人前では、決して泣かない、と。
そう言い切っていた齋藤先輩が。
私の目の前で、泣いていた。
先輩はもう一度、ごめん、と呟いて。
そして、私を静かに抱き締めた。
私の肩に頭を預けて
ただただ泣きじゃくっていた。
『ごめんな…
俺のせいで…松崎さんはっ……ぐす……。』
その姿はまるで小さな子供のようで。
愛しさがこみあげて、
何も考えずぎゅっと抱き締め返した。
もう、何したっていいじゃない。
だって、これは夢なのだから。
ただの、幸せな夢に過ぎないのだから。
もうじき、覚めてしまう、儚い夢なのだから…。
『俺はっ……
松崎さんに迷惑ばかりっ…』
ぐすぐす言って泣いている先輩。
『…らしくないんじゃないですか?』
優しく問いかける。
『…人の前では絶対に泣かないって言ってたじゃないですか』
『前言撤回。
…いいだろ。今ぐらい。』
そういって無理に笑おうとする先輩。
急に、体が重くなった。
と、先輩は私から離れて。
『もう、時間だ。ごめんな。
これ以上一緒にいたら…戻れなくなる。』
そう言って、私から離れていくように歩き始めた。
『戻れなくなるって、どこに……』
私がそう問い掛ければ。
『松崎さんが、元の世界、松崎さんの世界に戻れなくなるから。
…心配するな。
きっと、また会える。』
『先輩っ……!』
そうして、全てが白い光に包まれて、
消えた。」
14/06/30 22:22更新 / 美鈴*