「お話」15.
飼い主さんはいつものように語り出す。
優しい目と、寂しげな声で………
「……私がその蝶を追いかけて、ついたのはなぜか学校だった。
私が今行こうとしてたのに。わざわざ蝶に付いて行く必要なかったな……。
けれど。
ひとつ、不思議なことがある。
誰も、いない。
音も、しない。
無人で、無音の世界。
……なんで??
わかんないことだらけ。
蝶はどんどん先に行っちゃう。
仕方なく後を追いかけて行くと……
たどり着いたのは、二階少人数教室。
私のいるホルンパートの部屋。
…齋藤先輩とたくさんの思い出を作った場所……。
そこで蝶は空中で止まってから、私の方を向いた。
『……来てくれたのだな』
あ、話せるんだ。
しかもなぜか日本語。
……声が誰かに似ている。
そう感じたけれど、誰かまではわからなかった。
けれど、どこかで聞いたことのある、少し懐かしい声……
『お前をここに連れて来たのには訳がある』
私の様子なんて全く気にせず話を進める蝶。
ちょっと腹立つ。
『……訳、って何よ?』
……言ってしまってから気付く。
…敬語の方がよかったかな??
蝶の方は細かいことなんてさほど気にする様子ではなかった。
ただ、どこか懐かしいような、そして無機質な声で話を続けているだけだから。
『……お前には、【願い】はあるか??
強い、強い【願い】が。』
この蝶って生きてるのかな??
声が無機質だし、私が何を言っても聞かなさそう。
それに…今まで、金色の粉を振り撒きながら、飛ぶ輝く金色の蝶なんて見たことも聞いたこともないもの。
『もう一度問う。
お前には、強き【願い】はあるか?』
考え事をしていて全く人の話を聞いてなかった……
えーと……強き、願い………
願い……私の願い…………それは。
『齋藤先輩……。』
齋藤先輩を生き返らせて、
また、前と同じ日々を送りたい。
蝶は何も言わなかった。
まるで何事も聞いてなかったかのように、ただひらひらと宙を舞っている。
『……そうか。やはり、な。』
しばらくして、蝶は口を開いた。
『私は天に命じられて、お前を観察していた…。』
静かなその声を聞いていると、不思議と心が落ち着いた。
『お前がしきりに呟いていたその名前、私が察するに、その者は、死んだのだな…。そうだろう?』
私は何も言わなかった。
その言葉を口に出すのが怖かった。
…私は、まだ認めたくなかった。
……先輩が、もうこの世にいないなんて。
『……答えよ』
『…っ』
私は静かに首を振った。
…蝶はようやく分かったらしく、それ以上聞くのを止めた。
…鈍感な蝶。そこら辺もうちょっと早く理解してほしかった。
『……お前は何がしたい?
叶えてやれるかもしれない』
『え?』
私は顔を上げた。
今…なんて………?
『お前の願いは何だ?』
『私…』
『……齋藤先輩を、生き返らせたい。』
『私は時間を巻き戻すことができる。』
蝶はそう言った。
…ってことは………!
『しかし』
……え?
『過去を変えることができるか、というのは別問題だ』
えっ……?
それって……
『つまり、過去は変えられない。
諦めろ。』
『……そんなっ………!』
期待させておいて……無理だって言うの??
『私でさえ運命に逆らうことはできん。』
『ちょっと待って、貴方は運命を変えようとしたことはあるの??』
蝶はしばらく考えて……
『ない』
そう呟いた。
…挑戦していないのに、なんでそんなに決めつけられるの?
…過去は、変えることもできるんじゃないかな?
やってみないと、わからない!!
『……私を、過去に連れてって。
…過去は、確かに変えられないかもしれない。
けど、やってみないと分からないじゃない?
私は、わずかな可能性でも、それに賭けてみたいの。』
『……そうか。』
言い切った私の言葉を、蝶はちゃんと受け止めてくれたみたい。
『なら、やるだけやってみるがいい。』
私のまわりが蒼白く輝き出した。
蒼い線で、丸と、あとよく分からない文字が綴られていた。
『あぁ、そうだ。』
蝶が思い出したように呟いた。
『私の名はフィレモンだ。よろしくな。』
そして、次の瞬間、私はここにいなかった。」
優しい目と、寂しげな声で………
「……私がその蝶を追いかけて、ついたのはなぜか学校だった。
私が今行こうとしてたのに。わざわざ蝶に付いて行く必要なかったな……。
けれど。
ひとつ、不思議なことがある。
誰も、いない。
音も、しない。
無人で、無音の世界。
……なんで??
わかんないことだらけ。
蝶はどんどん先に行っちゃう。
仕方なく後を追いかけて行くと……
たどり着いたのは、二階少人数教室。
私のいるホルンパートの部屋。
…齋藤先輩とたくさんの思い出を作った場所……。
そこで蝶は空中で止まってから、私の方を向いた。
『……来てくれたのだな』
あ、話せるんだ。
しかもなぜか日本語。
……声が誰かに似ている。
そう感じたけれど、誰かまではわからなかった。
けれど、どこかで聞いたことのある、少し懐かしい声……
『お前をここに連れて来たのには訳がある』
私の様子なんて全く気にせず話を進める蝶。
ちょっと腹立つ。
『……訳、って何よ?』
……言ってしまってから気付く。
…敬語の方がよかったかな??
蝶の方は細かいことなんてさほど気にする様子ではなかった。
ただ、どこか懐かしいような、そして無機質な声で話を続けているだけだから。
『……お前には、【願い】はあるか??
強い、強い【願い】が。』
この蝶って生きてるのかな??
声が無機質だし、私が何を言っても聞かなさそう。
それに…今まで、金色の粉を振り撒きながら、飛ぶ輝く金色の蝶なんて見たことも聞いたこともないもの。
『もう一度問う。
お前には、強き【願い】はあるか?』
考え事をしていて全く人の話を聞いてなかった……
えーと……強き、願い………
願い……私の願い…………それは。
『齋藤先輩……。』
齋藤先輩を生き返らせて、
また、前と同じ日々を送りたい。
蝶は何も言わなかった。
まるで何事も聞いてなかったかのように、ただひらひらと宙を舞っている。
『……そうか。やはり、な。』
しばらくして、蝶は口を開いた。
『私は天に命じられて、お前を観察していた…。』
静かなその声を聞いていると、不思議と心が落ち着いた。
『お前がしきりに呟いていたその名前、私が察するに、その者は、死んだのだな…。そうだろう?』
私は何も言わなかった。
その言葉を口に出すのが怖かった。
…私は、まだ認めたくなかった。
……先輩が、もうこの世にいないなんて。
『……答えよ』
『…っ』
私は静かに首を振った。
…蝶はようやく分かったらしく、それ以上聞くのを止めた。
…鈍感な蝶。そこら辺もうちょっと早く理解してほしかった。
『……お前は何がしたい?
叶えてやれるかもしれない』
『え?』
私は顔を上げた。
今…なんて………?
『お前の願いは何だ?』
『私…』
『……齋藤先輩を、生き返らせたい。』
『私は時間を巻き戻すことができる。』
蝶はそう言った。
…ってことは………!
『しかし』
……え?
『過去を変えることができるか、というのは別問題だ』
えっ……?
それって……
『つまり、過去は変えられない。
諦めろ。』
『……そんなっ………!』
期待させておいて……無理だって言うの??
『私でさえ運命に逆らうことはできん。』
『ちょっと待って、貴方は運命を変えようとしたことはあるの??』
蝶はしばらく考えて……
『ない』
そう呟いた。
…挑戦していないのに、なんでそんなに決めつけられるの?
…過去は、変えることもできるんじゃないかな?
やってみないと、わからない!!
『……私を、過去に連れてって。
…過去は、確かに変えられないかもしれない。
けど、やってみないと分からないじゃない?
私は、わずかな可能性でも、それに賭けてみたいの。』
『……そうか。』
言い切った私の言葉を、蝶はちゃんと受け止めてくれたみたい。
『なら、やるだけやってみるがいい。』
私のまわりが蒼白く輝き出した。
蒼い線で、丸と、あとよく分からない文字が綴られていた。
『あぁ、そうだ。』
蝶が思い出したように呟いた。
『私の名はフィレモンだ。よろしくな。』
そして、次の瞬間、私はここにいなかった。」
14/06/11 23:18更新 / 美鈴*