気まずさと後悔。〜山吹〜
注)
かなりややこしい構造になってしまいました。
():原田の考えてることetc.
[]:小原の考えてることetc.
で表示してあります。
会話文はほとんど両視点共通です。
(歩き出して数分。
俺はまださっきのことを忘れずにはいられなかった。
小原さんもしっかり覚えてるだろうし、やっぱり謝った方がいいのかな……)
「えっと……その…
……さっきは、ごめん」
(そう言って、立ち止まった。
……合わせる顔がない。そう思った。)
[あの建物に圭輔達を閉じ込めて、
それから歩き出して少し経っている。急に謝られて、私は戸惑った。
いきなり立ち止まった先輩の数歩先へ歩いてから止まる。
なんとなくだけれど、今は私の顔を見られたくなかった。]
「もっとましなやり方あったはずなのに……。」
「…。」
[何を言えばいいか、わからない。
だって、先輩は全然悪くない。
悪いのは…私なんだから。
私こそ謝るべきなのに。
…何を言えばいいか、わからない。]
「別に好きなんかじゃない、ただの部活の先輩に…ごめんな。
…もう……そういうことしないから。」
「………。」
[只の部活の先輩なんかじゃない。
私は……先輩が好きなのに。
それを言うことすら…恥ずかしくてできないなんて。
もし、私の気持ちを言葉にできたなら。
先輩も、もうこんな思いをしなくていいのに。
…けれど、私は先輩にとって、只の後輩でしかない。
その現実が、私には辛かった。]
「……どうして責めないんだよ。悪いのは全部、俺なのに。俺がああいうことしなければ、小原さんを傷つけることも無かったのに!どうして何も言わない!!!」
(何か言ってくれさえすれば。
言葉はなくとも、何かしてくれれば。
嫌われたかもしれないという現実に諦めもついたかもしれないのに。
嫌いと素直に言うなり、叩くなり…
なんかしてくれよ。じゃないと……不安だ。)
[……何も、言えないことが、先輩をさらに傷付けている。
私に、素直に言葉を紡ぐ勇気がないせいで。
今、先輩は傷ついてる。]
「………私は……」
[…先輩が、好きです。
言いかけた言葉を、飲み込んだ。
…これ以上、もう気まずくなんてなりたくない。]
(俺の事が、嫌いとでも言おうとしたんだろうか。
震え、掠れた声は、俺には嫌悪としか感じられなくて。
罪悪感に、心がズタズタになりそうだ。)
「…もっと、人を疑うことを知ってください。
…人の言葉を鵜呑みにしすぎです。」
[なるべく、何の感情も入れずに、言葉を紡ぐ。
今、我慢しているものを溢れさせてしまったなら。
きっと、泣き出してしまいそうだから。]
(小原さんが言った言葉は、どこか冷たくて。
俺のことを、拒絶しているようにも思えた。)
「…うん。わかった。もう…こんなこと、しないから。」
(そう言った顔は、少し震えていた。
…情けない先輩だな、俺は。
……こんな俺は、見てほしくないな。)
[答えた先輩の声は少し震えていて、
泣いてるんだ、ってすぐ分かった。
…こんなの、やだ。
どうにかしたい、そう思ってるのに、どうしたらいいかわからない。
それがものすごく、もどかしい。]
「……私は……初めては、好きな人に、ってずっと思っていました。」
[ふとこぼれそうになった本音を慌てて押しとどめた。けれど、ある程度言ってしまっては、もう遅い。]
(げっ。
そうだったらどうしようとか考えてはいたけれどやっぱりそうなのか……
初めて、ってなんか大切な感じがするのは俺もわかる。
…それに…だな……)
「言っていい?」
「どうぞ。」
「実は俺も…初めて、なんだよねー…はは…」
「…!」
[えっ………うそ。
いや嘘だから本当だから、って何が変わるわけでもないけれど……]
「それなのに……決めてたのに。
俺が小原さんの『好きな人』じゃないのに、奪っちゃって…ごめんな。」
[違う……違う!
私は…最低だ。
こんなに先輩が傷ついてるのに、
心のどこかで、先輩に…されてしまったことを喜んでるんだ。
先輩が傷ついていようが、お構いなしに……
こんな私を、先輩は嫌いになったかもしれない…けど。]
(俺は小原さんの好きな人じゃない。
小原さんのことだから、きっともっといい人なんだ…俺なんかに比べて。
そう考えていると、なんだか少し悲しくなった。
ねぇ…せめて。せめて…)
「嫌いに、ならないで。」
「……たったそれだけで、嫌いになったりしませんから。」
(二人の声が、重なった。
『嫌いになったりしない』
その言葉を聞いて、少し安心したような、そうでないような。)
[私と先輩の声が重なった。
けれど、先輩の言葉はよく聞こえた。
『嫌いに、ならないで。』
俺はまだ小原さんを嫌いになってない。
そんなことを言われたようで、ちょっと嬉しい。
少し顔が熱くなった。]
「…先輩、もうこういう気まずいのやめません?
…忘れちゃいましょうよ。」
[努めて明るくそう言って、先輩のいる方に振り返る。
…今は、とりあえずいつも通りでいたい。]
(明るい声が聞こえて、思わず顔を上げる。
顔を赤くして、こちらを向いた小原さん。
もういいや、忘れてしまおう。
小原さんの言葉通り、こんな気まずいのは俺もやだ。
小原さんの方に歩み寄る。
…顔、赤すぎじゃないか?
と思った瞬間、まさに忘れようとしていた数十分前のように小原さんがふらついて……)
「小原さん!!!」
[遠くの方から名前を呼ばれる感覚。
顔が熱かったのは、やっぱり……
体が重くて、力も入らなくて。
重力に逆らえず、そのまま崩れ落ちた。
固い地面にぶつかる感覚はなくて。
先輩が受け止めてくれたんだと気付くまで、数秒。
体が熱くて、頭が痛くて。
やっぱり体調悪かったのに無理矢理来たのが間違いだったかも……ーー]
(小原さんを必死に受け止める。
体が異常に熱い。顔色も悪い。
やっぱりさっさとリタイアさせて医務室に送るべきだったんだ。
さっきは大丈夫そうだったからって、油断してた。
くそっ……)
「小原さん!小原さん!!」
(呼び掛けても、返事は返ってこなかった。)
かなりややこしい構造になってしまいました。
():原田の考えてることetc.
[]:小原の考えてることetc.
で表示してあります。
会話文はほとんど両視点共通です。
(歩き出して数分。
俺はまださっきのことを忘れずにはいられなかった。
小原さんもしっかり覚えてるだろうし、やっぱり謝った方がいいのかな……)
「えっと……その…
……さっきは、ごめん」
(そう言って、立ち止まった。
……合わせる顔がない。そう思った。)
[あの建物に圭輔達を閉じ込めて、
それから歩き出して少し経っている。急に謝られて、私は戸惑った。
いきなり立ち止まった先輩の数歩先へ歩いてから止まる。
なんとなくだけれど、今は私の顔を見られたくなかった。]
「もっとましなやり方あったはずなのに……。」
「…。」
[何を言えばいいか、わからない。
だって、先輩は全然悪くない。
悪いのは…私なんだから。
私こそ謝るべきなのに。
…何を言えばいいか、わからない。]
「別に好きなんかじゃない、ただの部活の先輩に…ごめんな。
…もう……そういうことしないから。」
「………。」
[只の部活の先輩なんかじゃない。
私は……先輩が好きなのに。
それを言うことすら…恥ずかしくてできないなんて。
もし、私の気持ちを言葉にできたなら。
先輩も、もうこんな思いをしなくていいのに。
…けれど、私は先輩にとって、只の後輩でしかない。
その現実が、私には辛かった。]
「……どうして責めないんだよ。悪いのは全部、俺なのに。俺がああいうことしなければ、小原さんを傷つけることも無かったのに!どうして何も言わない!!!」
(何か言ってくれさえすれば。
言葉はなくとも、何かしてくれれば。
嫌われたかもしれないという現実に諦めもついたかもしれないのに。
嫌いと素直に言うなり、叩くなり…
なんかしてくれよ。じゃないと……不安だ。)
[……何も、言えないことが、先輩をさらに傷付けている。
私に、素直に言葉を紡ぐ勇気がないせいで。
今、先輩は傷ついてる。]
「………私は……」
[…先輩が、好きです。
言いかけた言葉を、飲み込んだ。
…これ以上、もう気まずくなんてなりたくない。]
(俺の事が、嫌いとでも言おうとしたんだろうか。
震え、掠れた声は、俺には嫌悪としか感じられなくて。
罪悪感に、心がズタズタになりそうだ。)
「…もっと、人を疑うことを知ってください。
…人の言葉を鵜呑みにしすぎです。」
[なるべく、何の感情も入れずに、言葉を紡ぐ。
今、我慢しているものを溢れさせてしまったなら。
きっと、泣き出してしまいそうだから。]
(小原さんが言った言葉は、どこか冷たくて。
俺のことを、拒絶しているようにも思えた。)
「…うん。わかった。もう…こんなこと、しないから。」
(そう言った顔は、少し震えていた。
…情けない先輩だな、俺は。
……こんな俺は、見てほしくないな。)
[答えた先輩の声は少し震えていて、
泣いてるんだ、ってすぐ分かった。
…こんなの、やだ。
どうにかしたい、そう思ってるのに、どうしたらいいかわからない。
それがものすごく、もどかしい。]
「……私は……初めては、好きな人に、ってずっと思っていました。」
[ふとこぼれそうになった本音を慌てて押しとどめた。けれど、ある程度言ってしまっては、もう遅い。]
(げっ。
そうだったらどうしようとか考えてはいたけれどやっぱりそうなのか……
初めて、ってなんか大切な感じがするのは俺もわかる。
…それに…だな……)
「言っていい?」
「どうぞ。」
「実は俺も…初めて、なんだよねー…はは…」
「…!」
[えっ………うそ。
いや嘘だから本当だから、って何が変わるわけでもないけれど……]
「それなのに……決めてたのに。
俺が小原さんの『好きな人』じゃないのに、奪っちゃって…ごめんな。」
[違う……違う!
私は…最低だ。
こんなに先輩が傷ついてるのに、
心のどこかで、先輩に…されてしまったことを喜んでるんだ。
先輩が傷ついていようが、お構いなしに……
こんな私を、先輩は嫌いになったかもしれない…けど。]
(俺は小原さんの好きな人じゃない。
小原さんのことだから、きっともっといい人なんだ…俺なんかに比べて。
そう考えていると、なんだか少し悲しくなった。
ねぇ…せめて。せめて…)
「嫌いに、ならないで。」
「……たったそれだけで、嫌いになったりしませんから。」
(二人の声が、重なった。
『嫌いになったりしない』
その言葉を聞いて、少し安心したような、そうでないような。)
[私と先輩の声が重なった。
けれど、先輩の言葉はよく聞こえた。
『嫌いに、ならないで。』
俺はまだ小原さんを嫌いになってない。
そんなことを言われたようで、ちょっと嬉しい。
少し顔が熱くなった。]
「…先輩、もうこういう気まずいのやめません?
…忘れちゃいましょうよ。」
[努めて明るくそう言って、先輩のいる方に振り返る。
…今は、とりあえずいつも通りでいたい。]
(明るい声が聞こえて、思わず顔を上げる。
顔を赤くして、こちらを向いた小原さん。
もういいや、忘れてしまおう。
小原さんの言葉通り、こんな気まずいのは俺もやだ。
小原さんの方に歩み寄る。
…顔、赤すぎじゃないか?
と思った瞬間、まさに忘れようとしていた数十分前のように小原さんがふらついて……)
「小原さん!!!」
[遠くの方から名前を呼ばれる感覚。
顔が熱かったのは、やっぱり……
体が重くて、力も入らなくて。
重力に逆らえず、そのまま崩れ落ちた。
固い地面にぶつかる感覚はなくて。
先輩が受け止めてくれたんだと気付くまで、数秒。
体が熱くて、頭が痛くて。
やっぱり体調悪かったのに無理矢理来たのが間違いだったかも……ーー]
(小原さんを必死に受け止める。
体が異常に熱い。顔色も悪い。
やっぱりさっさとリタイアさせて医務室に送るべきだったんだ。
さっきは大丈夫そうだったからって、油断してた。
くそっ……)
「小原さん!小原さん!!」
(呼び掛けても、返事は返ってこなかった。)
14/08/09 17:37更新 / 美鈴*