ポエム
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《夢の情景》



家路を行く僕を、涼しくなったそよ風が撫でてくれる。空を見上げれば、朱色の雲の遠さが愛おしい。それは遠くて近かった。ほんのりとした哀しさが、なかなか人と上手く行かないこの身と、共鳴していた。

アパートに戻って、寂寞も生の肥やしなんだなと、なんだかじんとなった。どんな人とも上手くやれるような人間だったら、この夕べの夕焼けを、あんな風に感じることはなかったろう。

悦びだって、そうかもしれないぞ?と、僕はちょっと調子に乗って。朝日に輝く海の煌めきや、こんもりと積もった愛らしいふかふかの白い雪。仄かな哀しみを宿した瞳だからこそ、そんな輝ける風景から多くのものを引き出せるということだって、あるのかも。

暗から明へ、というだけではなしに、かつて渦潮のように蠢いた諸々の情は、きっとそのとき、情景という名の優しく大きな手によって救(掬)われるのだ。

ただその情景に邂逅するための道程だった―とまで言えるわけではなくたって、「夢をありがとう。またいつか。その日まで僕もまた、頑張って歩いていく」―そんな風にして、そのときどきの情景との邂逅を繰り返してゆける、それはもうそれだけで、日々を歩き続けてゆくことの理由になり。

かつて見た、しかし同時にまた未だ見ぬ、そんな《夢の情景》―明日の日々の空に追いかけるよ。星の瞬きを、遠く見やるように。







23/09/16 09:27更新 / はちみつ



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