ポエム
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人との関係、物との関係
人はこちらの予想通りには動かない。だから日々を送っていると、数々の些細な―しかしときに手痛い形での―〈裏切り〉を、僕らは経験する。

挨拶をいつも明るく返してくれている子から、なぜだかそっけない挨拶が返ってきた。互いにとうせんぼし合ってしまい、こちらが謝ったのに、まるでそれを無視するかのようにスタスタ歩いていった。

逆に心地よい裏切りの場合には、僕らは相手の漠然とした朗らかさや瑞々しさだけ受け取れば足りる。しかしさきの例のように不快な場合、僕らは疑心暗鬼になって相手の心中の〈後追い〉をするのだが、そこにはえもいえぬ滑稽さがある。僕はその地点(過去)に縛られて彼/彼女の真意を必死で追っている。当の彼/彼女は何事もなかったかのように次の関心事に移っている(今を歩いている)。相手の裏切りに〈驚く〉ことが絶対的に「先」であり、認識としての〈後追い〉はその名の通り「後」にしかなし得ない。僕はいわば彼/彼女に〈出し抜かれた〉のだ。

対人関係に疲れた僕は、物との関係に逃げ込んだ。掃き掃除にシンク磨き。掃くほどに、磨くほどに、自分を少しずつ取り戻してゆく実感があった。

人に疲れたときは家事に没頭するに限る。それらは簡単で、心を込めることができる。それらは予想通り完成させれることが確実で、気持ちと現実を綺麗に照応させることができる。家事はけして僕らを出し抜かない。そうして僕は、失われかけた秩序と誇りを取り戻す。
23/09/09 08:47更新 / はちみつ



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