ポエム
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冬の森の吐息
熊は地下だけでなく、岩の狭間や茂った植生の中など、さまざまな場所で冬眠するのだと知って僕は高揚している。

愉快な休息のような、銘々の冬越しよ。そんな熊たちをあちこちに抱く母なる森の、その静けさよ。

もし足を踏み入れたなら、クリスマスツリー型の可愛いマツが僕を出迎えてくれるだろうか。それはつまり〈大きなクリスマスツリー〉で、可憐に雪でも戴いていたりしたら、僕はもう一発で心を持っていかれるだろう。

けれども、じゃあ眠ってる熊を見つけてみよう、ってなると、森はリアルお化け屋敷の舞台と化す。あちこちで眠っているとは、そういうことだ。

そうして結局、僕は開けた場所に留まって、切り株の上に腰を下ろして佇むだろう。もちろんそこにも同じように、やはりしいんとした、冬の張り詰めた静寂が満ちている。〈自然を抱く〉とは実際のところ、そんな距離感においてこそ成されるべきものなのかもしれない。可愛い子熊の遠くて近いような寝息に、耳を澄ませるように。

…でもやっぱり実際に見てもみたいなぁ。眠っている子熊にイタズラをして起こして、どんな反応をするか見れたりなんかしたら、最高なんだけど。でも傍には、大きな大きな母熊がいるだろう―そう思うや、僕は笑っていた。それはやはりひきつった笑いだった。けれどそこにはまた、たしかに畏敬の念も含まれていた。

子熊を守るように、このいま母熊は眠っている。僕は切り株の上で、そんな彼女のことを想っている。吐息が白く美しいことに、とても大きな意味が宿ったようだった。

23/08/28 05:55更新 / はちみつ



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