ポエム
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月日の馬車
朝起き寝台から降りると、仄暗い大気のさなかを一匹の―と言いたくなるほどに―か細い蛙の声が伝ってくる。それがなんだか梅雨の終わりの象徴のようで、聴き惚れながらも、心なしか寂しくなる。

いずれにせよ、月日の馬車は灼熱の大地へとその歩みを加速させているのだ(昨夜のなんと蒸し暑かったことか)。木々が、稲が、きらびやかな緑に輝き、蛙たちは美しく歌い、そうしてしつらえられた舞台に、やがて入道雲がユーモラスに登壇する。

それにしても不思議なことは、そんな季節でさえ月日の一通過点にすぎないことだ。この梅雨を越すのはもう38回を数えるというのに、いまだに私は「夏」がその終着駅でないという事実を、この胸に呑み込むことを拒んでいる。

明るみ始めた大気のなかやはり伝ってくる蛙の声が、ふっとコオロギの声と重なる。まだその姿を現してさえいないはずの蝉たちの時雨を背に受けながら、すでに悲秋へと運ばれていくよう。
23/06/24 12:26更新 / はちみつ



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