ポエム
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入道雲の下で
えもいえぬ悔しさが、ほのかな哀しみに変わったら、私はそれを掌でしかと掬い、瞼浸すじんわりとした心地とともに夏を行こう。

万物を原色に染め上げるかのようなこの季節は、外界に惑うことがないゆえに、かえって胸中の微細な違いを探求するのに向いている。

大らかにうねる雲は私を安堵させ、その下で私はうっすらとした哀しみを戴きながら凛と咲こう。この大地で移ろうものはただ風のみであり、薄くなってきた黒髪をなびかせては、その来たりし過去を想い、そしてその行き先を想う。

一羽目の蝉が鳴き始めるのを聴くや、踵を返し家路を行く。その背を、私に代わって泣いてくれる彼らの唱和に包まれるや、古代の抒情歌が思い返されて、報われることのなかった哀しき人に、気がつけばこの胸を重ねている。
23/06/23 19:40更新 / はちみつ



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