ポエム
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田舎町―光の湯舟
あがき、渇き、満たされなさ…
そんなものに、まるで
ロックミュージシャンのように浸っては
明日へと疾駆することこそが生きることだと
そう信じて疑わなかった、2.3年前

満たされない欲望 を
持ちたいと願う欲望 に
支配されていたのか―炎天下に空しく
喉を乾かせ続けるかのように

ともかく、かつて僕はそんな風に
「不自由」きわまりなかった

けれど"この今"に
すでに完成された幸せがあるのなら
僕のすべきことは ただ
それを維持するために歩くことだけだ

明日を今日と違う日に しなくてもよく
といって違う日にしたければ 変えてみてもよく
自分は変わらなくちゃならない ではなく
自分を変えるという選択をしてもいい のであり…

かつての不自由はことごとく
身軽でフレキシブルな「自由」となった

そうして僕は考える
考えたいから 考える
思考のバックボーンは幸せ
―とまでは言えず、哀しみや失望
そういったものに頼りがちだけど
身軽に、自由になったからこそ
距離が取れ語れるようになった とも言え

いずれにせよ、時間が必要だった

TokyoやOsakaがこの国の中心だと
そう思い込んでは侘しさを
切なく抱きしめていたあの日々
あの日々の僕はまだ、この地の
そのたおやかな煌めきに憩うには
少しばかり若かったのだろうか

そうして迎えた、半月前の休日の午後
いつものようにアパートで
この閑静な住宅街の一室で
ぼんやり考え事をしていると
ふいにそれは訪れた

大都会>田舎町の主従が、この胸のなか
グニャリと回転するように入れ替わった
放心したようになった僕は
うららかな光の祝福の音を
その音なき音を、聴いた気がした

この国の、もといこの世界の中心は
ほかでもない「この場所」だった

僕はその幸福という名の光の湯舟に
ただこの身を浸してさえいればいいのだ

23/05/28 08:23更新 / はちみつ



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