ポエム
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君の前髪が夏風に
春でもなく冬でもなく秋でもなく、なぜ夏なんだろう?四季のうちで1番印象的なのが夏なのは、なぜなんだろう?

そんな風に文を起こしたところで、さしたる解答を示せる目算などなくって。ただ僕はそうやって、「夏」をいわば真空のような場所に放ってみたかったんだろう。"なんでなの?"―夏という既知が未知になる。





蔭がことさらありがたい季節だ。女子高生が白い首にタオルを垂らして、菩提樹に背をもたれている。

"お蔭様、お蔭様っ!"―ちょっぴりとんがった彼女とて、大樹の恵みの前、ならぬ内では、素直で可憐な乙女となる。

黄緑色の芝の上を駆け回る子供たち。頬がキラキラ煌めいて。"わたしもたいがい老いたわね"と、胸にごちる彼女は17歳。

少しでいいから頭を上げてと、彼女に伝えたくってたまらない。むさくるしい大気が嘘のような、どこまでも延びゆく青一色。

でも、それを希望だなんて翻訳しないでね。ただそこに夏がある。遥かな瑞々しい夏がある―それだけ胸に仕舞えばきっと、君のその胸には壮大なドラマが動き出す。前髪がそれとなく、夏風になびくのが始まりの合図。"だりい"なんて言いながら、君は夏を思い切り吸い込んで―

23/05/18 12:40更新 / はちみつ



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