ポエム
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たとえ弱くなってしまったとしても
親を敬わなければならない とか
感謝の心を忘れてはならない とか
誰一人としてそこから自由になれないような
そんな常識にさえ抗っていた20代
自己はいかなる束縛からも自由に
この世界に峻厳と立っている―
その自覚だけを拠り所に歩んでゆこうと
いつも睨めつけるような目をしていた
あの頃

けれどそれは愚かな捉われだったのだ
常に反抗していなくてはならなかった僕は
そのじつ実に不自由きわまりなかったのだ

いざ常識をインストールしてみたら
あら不思議
目尻は下がり表情は柔和になり
胸にはそよ風が吹き渡っているかのよう
心は不自由になったはずなのに
僕の気持ちはどこまでも伸び伸びと自由になった

きっと僕は胸の奥では
常識たちに同意していたのだ
もっと言うと
親を敬いたがっていた
世界や人に感謝したがっていた
でもそれを認めてしまうと
依存して在る自分を認めることになる―

なんて強がり
なんて痛々しい強がり…


でもまた思うのだ
もしかしたら人は
一生のうちに一度くらいは
そのくらい強がって不遜になることも
あるいは必要なんじゃないか
そんな時期を経ることで
より力強い自己を作ってゆくのだとしたら―

僕は20代からある面では後退してしまった
柔和になったのはいいのだけど、そもそも
挑戦的な眼差しを人に向けることが少なくなった
怒りを貯めることができなくなって
すぐに人を許してしまうようになった
何か諍いがあると僕はすぐ胸の中で
その人と笑顔で和解するシーンを思い描く
そういう風にしないと心が持たないのだ
そんないまの僕はさながらに
落ちぶれて抜け殻になった元騎士―

それでも明日の朝もまた僕は誓うだろう
今日も1日襟元正して過ごせますようにと
たとえ相手に先を譲ることになろうとも
(同い年なら8割方譲る感じなのだけど)
この胸の気高さだけは捨てずにいられるようにと

そしてちょっと強いそよ風に
この両頬が包まれる時なんかには
そんな弱くなってしまった自分が
けっこう可愛いらしく見えたりもするんだ
23/04/22 15:12更新 / はちみつ



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