ポエム
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今日は有休だった
今日は有休で、とある手続きをしに市役所に行ってきた。行く前は面倒だったけれど、いざ駅前の小綺麗な通りを歩き出すと、そんな気分は吹き飛んだ。久方ぶりに歩く大好きな通りは新鮮で、春の陽気と相まって、僕は夢うつつのようになった。そのうち、なんだか生きてることそのものが夢みたいに感じられてきて、遠くを見るように、ゆっくりゆっくり歩を進めるまでになった。ちょっと特殊なモードで意識が流れ出していた。会社の中で立場が弱くて―結果、気持ちぞんざいな話し方をされることがある―叫び出したくなると、昨日の朝書いていた(もう消した)ことが、なんだかとんと馬鹿げてるように思えてきた。自分が生きてるってこと自体にある根本的な不思議さと比べたら、少々理不尽な目に遭うことなんて、それは不思議でもなんでもないことだ。だから気にすることはない―そう思えて、なんだかとても楽になった。

市役所に行くと、僕は10回近くも署名しなくちゃならなかった。でもなんだか心地よかった。もちろん、違う場所に署名したりすれば、僕は望む結果を得ることはできない。僕はつまり、指示通りに決められたことをしなくちゃならなかった。それは謙虚になるということにほかならなかった。そこには得難い快感があった。考えてみれば、ほとんどのことを自動的にまた主体的に行っている日々においては、そんな機会はそうそうないのだ。

その帰りには、やはり近くにある行きつけのケーキ屋まで歩いて行った。遅れに遅れたバレンタインのお返しを買うために(苦笑)。ここまで遅れたからには、それなりのものを渡さないと失礼だ。狭い店の中を注意深く歩くのは心地よかった。他の人の邪魔にならないようにとの気配りが、やはり謙虚であることの快感を連れてきたから。僕は桜柄のケースに入ったお菓子の詰め合わせを2つと、自分にバナナケーキを1つ買って、3000円ほどを支払い店を出た。気温はさらに上がっている。まるで夏風。この胸に、漠然とした幾夏もの記憶がパイ生地みたいに重なっているのを感じながら、夢を見るように謙虚であろうと思った。









23/04/04 17:32更新 / はちみつ



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