ポエム
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あなたから誰よりも遠くにいても
最後に会った1年前の正月明け
曇った吐息に
頬を紅潮させたあの笑顔

やっぱりちょっと若々しかった
3年前の夏の炎天下
爽やかな白のシャツ
汗粒煌めく雪の二の腕

その年の秋にはベージュのセーターを着て
眼鏡をかけるとなんだかインテリみたいだった

折々の季節を纏ったあなたの思い出
なのに不思議だね
春のあなたの記憶だけがないだなんて

それはきっと神様が、あの冬に続く春に
とっておきの別れの舞台を用意していてくれたから  
でもその舞台に僕は立つことができなかった 
突然途絶えたメールを
春が来てもずっと待ってたから
でもたぶん、本当は分かってたんだ
もう返ってくることはないだろうって

僕は別れを取り返す
女々しく返信を待ち続けていた春の日々に
本来なすべきだった別れの儀式を
この胸のなか思い描く

あなたは僕に背を向けて
桜吹雪のなか遠のいていく
泣いてなんかいない
分かってる
あなたは僕に
愛想を尽かしたんだから
でも僕は夢見てるんだ
あなたがそっと秘かに
慈母のような微笑を
湛えてくれている(た)ことを
"どうしようもない男ね。でも―"と
その「でも」の瞬間にその頬は緩み
その瞳は仄かに潤むのだ
ノスタルジーに浸る折のように

いつまでも、その眼差しのなかで
この日々を生きていたい―
だなんて、言わないよ
でも折に触れてはこの目を瞑って
僕はその奇跡に触れるだろう
遥かなる時空の狭間に垂らされた
たった1滴の愛の雫を
この手のひらで そっと掬うように

僕は生きていく
ずっと笑って生きていく
あなたから誰よりも遠くにいても
今日からまた笑っていける
この目尻の涙には
あの夏のあなたを映して―

23/04/02 06:23更新 / はちみつ



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