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また咲かせてください

黄のパンジーのように朗らかだった、あなたの頬が石膏のように固くなっていった哀しみは。それがせめて梅雨時出逢ったなら、やわらかな雨があなたをそっと和らげる、そんな空想へと逃げることができたのに。カンカン照りの夏の陽射しに乾きながらあなたは、せめてと日々を微細に微細に潤わせることを諦めなくて、そんな痛々しいほどに気丈なあなたの底に流れていたろう諦念を、わが身に引きつけ案じていた。

空を見上げてごらんと人は言う。けれどまさにその爽快さに見下されている、そう思うのは僕だけだろうか。瀟洒なパティスリーにふらりと立ち寄ると、ささやかな日々こそが朝露の煌めきのように感じられる。滋味に溢れる石段を登って、しんなりと寂れた寺の門に迎えられるだけで、さながら1人旅で疲れ果てた心身を、隠れ家のような茶室で癒してもらったような気になる。でもそんなあれやこれやと空の青は交信不能なのだ。とくに雲1つなく、のっぺりとした青が空一面を覆っているような昼下がりには、僕は惨めで足りない自分を埋めるように、自分に過食を許してしまう。笑ってしまうのだけど、色んな形のパンを次々口に放り込んでいると、さも自分が豊かになっていくような錯覚を抱いてしまう。アップルタルトを食べることは、北国の抒情を自らの内に取り込むことだ。フランクフルトにかぶりつく僕はニホンオオカミの魂を引き継いでいるんじゃないかな。最後に上品なアプリコットジャムをひと舐めすると、満腹感も相まって、お菓子の国を彷徨っているかのように夢見心地。でもやがてお腹はむくむくと圧を強めてきて、僕は歩くのさえしんどくなってひたすらに、天井を見つめ続けることしかできなくなる。

なにもかもが足りて多様なあなたでさえも、空の青には届かなかった。きっとあの哀しみは、そういう哀しみだったのだと、そう納得するほかないのだけど。

いずれにせよ、あなたは故郷の町に帰った。もちろんそこでも、相変わらず空は高くて青いでしょう。でもきっと、きっと人は、たとえようもなく温かいのだろうと、この街で自分が、それなりに恵まれてるだろうことへの感謝なんかほっぽり出しては、あなたの故郷を想うんだ。

そうしてまた咲かせてください。黄の朗らかな、パンジーの花。



25/12/24 06:36更新 / はちみつ

■作者メッセージ
昔、程度は低かったものの、過食していたことがありました。

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