アオバハゴロモの小さな小さな、薄い青緑色は夢のよう、まるで、遥かなる青と綿雲さえをも嗤っているよう。わたしもあんな気高い色になってみたいなぁなんて思うのだけど、綿雲の雑駁な愛らしさも、空の青のすべてを撫で包むよな包容力もわたしからは、それこそ100年くらい遠い気がする。

アーモンド型の瞳、っていう表現にわたしなんだか、とても惹かれるものがあるの。アオバハゴロモは気高いけれど小さくて、どこか健気でもあるよな羽虫。でもアーモンド型の瞳の人はただただ凛、っと気高くて、さながら1000年先の晴れやかな朝に、ささやかな住宅路の真っ直ぐな道に、やはり薄い青緑の風をまとって現れる人。

ねぇアオバハゴロモはね、生まれたときからずっとアオバハゴロモだったの。生まれたときからその高貴な色彩をしていて、そしてそれはお迎えが来るまで変わらないと約束されているの。

でもお姉さんは違う。お姉さんはね、少女時代はピンクだったかもしれないし、水色だったかもしれない。そうして女になりかけの頃は、ゾクゾクするよな紫だったかもしれない。でもそんなすべてを潜り抜けて"いま"、透き通るよな美しさで彩られた瞳を細めているの。

それは限りなく母のようで、実際お姉さんは一時期まったき母のようであったかもしれない。でもある雨上がりの朝に一滴の、この世界で最も崇高な色彩の雫がどこからともなくお姉さんへと滴って、お姉さんは流れるような夢へと目覚めたんだ。

ねぇ、砂漠の孤城に吹きすさぶ風の哀しみを、あなたは思い浮かべたことがある？それは砂風で、もちろん人を傷つける。でもね、風は砂を連れて行かないわけにはいかないの。心の美しい娘さんにさえ、忌避されるかもしれないわ。

あてどなく不毛の大地を彷徨っては、ささやかな緑に涼をやる。オアシスに辿り着いたと思っても、ひとときも留まることは許されない。

ねぇお姉さんはね、たとえばそんな風の哀しみをね、決して分かったフリはしないんだ。想いつつ、想うままにしておくの。ひとえに自分一人分のやさしさに、自足するように。

お姉さんの黒いポニテを、風がザーッと一吹きする。哀しいくらいに艷やかな、強さが後ろにたなびいていく。どこまでも続く住宅路の、後へ後へ、たなびいていく。

ねぇわたし、冷ややかな夢にも憩える女（おんな）になりたいわ。それでいいのだと、諦念に浸るわけでもなくわたしの、わたし自身の、ほんのりとした薄い青緑の愛だけを、みんなの胸に、静かに架ける希望を抱いて。

もちろんあなたにも、っね？