ポエム
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私にせめて、その頬を


月光に
海原ゆらゆら、深夜2時

だなんて

実際に海原を見てるわけじゃないんだけど

海風に白のカーディガンを巻き上げられて
まるで風に吹かれる蝋の火ね

なんて思った


今朝も私は小さな
小さな小さな世界で生クリームを織り続けてたわ

街路樹たちが夏風と戯れているなか一人

晩秋のように静かに口をつぐんでは手を


ねぇ

なだらかな丘の家々の合間にひっそりと咲いていた白の紫陽花を覚えてる?

あの夕刻がもし雨上がりの朝だったとしたら

私たちもしかしたら別れてなかったかもしんないよ?

なんて


あなたは新緑の煌めきそのもののように私の前に現れた

私の馬車はあなたのキラキラした瞳に引かれて
魅惑的な街をしかし静かに走り抜けた

あちらのカフェに
こちらの水族館

あなたに付き従うセイウチのよに
椅子にチョコンと座るよに


雨音を聴きながらしなだれ落ちる雹(ひょう)の夢を見た


だとしたら私は紅い椿かしら

なんてね

とぼけてみたの

実際には椿と思ったのが先だったわ


夕陽のなか紫陽花の白はやけに鮮やかで

それがかえって憐れみを誘って


可笑しいね

それは離れた日の二つの出来事
私が勝手に結び付けてるだけ


私はやっぱり椿だったの

でもあなたを狂わせることはできなかった






ふっと風を水色だと感じられた午後に
私は初めて世界は瑞々しいって思えたの

薄緑色のワンピースの裾を捲(まく)られるままにしてたんだ

あなたが初めて店を訪れたあのきらびやかな朝も
そうして水色の風に亜麻色の髪をなびかせながらね…

なんて


ねぇ明日こそ私
伸びやかに瑞々しく生きられるかな?

水色の風に麦わら帽子をちょいと上げて山の端を見て

山あいの凍える村で求め合ってたかもしれない私たちを思って

それで…


それでもし

またいつかあなたに逢ったとしても

もうリボン付き量産型ファッションはしてあげないんだから?



遥かなる青になれたなら

離れていながら
あなたの頬を包むことができたなら


私は夏蔭を想っています

目を瞑ればあなたの吐息を

この胸で

この小さな胸で

そっと夢見てしまうでしょう




25/06/13 22:49更新 / はちみつ



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