ポエム
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薄緑色のユニコーン


ユリカモメが頭上なかほどを横切っていく

それを私は劇画的にリフレインして
巻き起こった風に亜麻色の髪をなびかせた

水平線の遥か向こうの北国では
ショートケーキみたいな家々がこんもりとして
扉を開けると
オレンジ色の揺蕩うやわらかな夢が広がるんだ

悪戯好きの少年のように無邪気な火よ
ほんとうは白い街路を滑り回りたいだろうに
健気につつましく家を護り続けている火よ

ブラッドオレンジを彼に差し入れに行けたらな
レッドとオレンジ似たもの同士

編み物をしている奥さんが寝る時間になると
彼女は"おやすみ"と声をかけてくれます
その瞬間が彼の唯一、
甘えることのできる瞬間です
そうして明日まで透明になって眠るのです

ある日のこと
家に妙齢の女の子が訪ねてきました
なんでも奥さんの編み物仲間だそうで
彼女はジャーン(!)とユニコーンの織物を見せびらかしました

"わたしがずーっと仰ぎ見続けている動物です"
"あら、いいわねぇ"と奥さんは微笑ましげ

その哀しいほどに和やかな薄緑色に夢見心地になっていると
―「夏の小高い丘で、ユニコーンを見た人がいるんだって!」

彼女は奥さんにガンガンとタメ口で話しかけ始めます

あどけない花のよな顔
上品な唇に
雌熊のクロールのような語り口

ギャップにクラクラになって
水をかけられたように萎れそうになって
"いけない"と
自分を律してなんとか身を持ち直す

女の子に惚れたからって職務放棄するわけにはいかない


ぼーっとした私でも
彼女みたいな強い瞳を持てるかな

雲の上に王国があったなら
いまの私はどう映っている?

野に咲くシロツメクサみたいに
ふんわ凛っ、と
生きるだけでは足りないわ



25/05/26 06:33更新 / はちみつ



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