ポエム
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女俳優の頬

たとえば駅前のコーヒーチェーンで
漠然と思い巡らせたい
この世界に
たしかに歌や演技が存在することについて
たとえばそれが
雨上がりの朝なんたがったらなおいい
アスファルトの煌めきに溌剌とした笑顔を見てさ
ウソみたいだ灰色の影の徘徊するこの地上で
媚び売る女の張り詰めたトーンが大気割る様

無数の鳥居をくぐり抜けつつ上がり行く
神秘な巫女さん
彼女は美人だけれどとても化粧が濃くって
そしてロケットみたいな胸を白衣の中に隠してる
一つ、また一つとまるで彼女が
くぐり抜けることで世界は明るんでゆくよで
最後の鳥居をくぐって頂に立つと
彼女は海の果てに昇った日を抱き

ねぇあなたの厚化粧
全部引っ剥がしたらキツネのよな顔あなたはしてる?
紅の内に女豹のよな腰が蠢くと思うや卒倒しそうさと
革靴の音の狭間から真の厳(いかめ)しさを見る
あなたは媚びを売ってるよには見えないけれど
振る舞いのすべてが媚びである夢を僕は見ている
あなたは胸の底まで媚びているのだ
青紫の地層に本心を閉じ込めたまま

振り返ればそれなりの傾斜をゆるりと
何かに焦がれるよに登っていった芳香は
オス猫が入り口で残り香を執拗に腑分けする
そのさなかに世界の真実がある気がするけれど
僕はそれを知らなくたって構わないと
雨上がりの朝へとそっと左手を伸ばしていた
掌をゆっくりと上にひらく
仮面を外した女俳優の頬は

"私って強いって思ってた?"
そんな紋切り型を夢見る朝だ
"キミより美しい女を、僕は知ってる"
"どうせ、淫らな人でしょう?"
"でも、だからこそ厳かなんだよ"
"いいわ、どうせ私は小娘ですよぅ"
"愛らしいメス猫とも言う"
"今晩くらいは、甘えたげるわ"


25/04/04 20:40更新 / はちみつ



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