雪原、灰色の世界、牡丹雪と橙の光と
その夜、彼女は夢を見る。
狐の彼女はその背に(その尾に、と言うべきか)黒い森の鬱蒼とした気配を感じながら、このいま遥かなる雪原を前にしているところだ。朝陽が遠き面に射しして淡く淡く光っている、美しいけれどどうしてだろう、なんだか涙が出そうになる。一寸躊躇したのち彼女は一歩を踏み出した。遠大な旅の第一歩であることを悟りつつ。
…と、建物の群れがぬうっと大地から生えてきた。次々生えて視界は塞がり、気づけば大地も灰色に変わってしまっていた。代わりのように牡丹雪が、やはり灰色の空から舞い降り出した。煉瓦造りの家々の窓から漏れ出る光の、その橙色との照応に彼女はいわば、退廃のさなかの艶とでもいうべきものを見て取った。それは希望というよりもやはり艶というのが正確であるように思われた、果てまで家々が連なっていて雪原はもはや見えない。白と橙はそんな世界の灰色にいわば抱かれていた。気づけば彼女は人に戻ってしまっていた。"私はあなたたちにしなだれかかるようにして夕闇を行くだろう"