君は桃色の頬をしている
入部した部で一緒になったというだけなのだけど、それは夢が空から降ってきたに等しかった。そして半信半疑で目を見開く度に、彼女はその夢の美しさに打たれることになった。
「おい、〇〇、聞いてるか?」「あっ、ごめんなさいっ…」教室後ろの左端。特等席で触れる、開かれた窓から吹き込む風は、どうしてだか季節外れの桃の香りがした。
「そんなことがあったんだ」いつものように、長い脚を彼女の歩調に合わせながら彼は言った。なんだか目眩がするようだった。彼の動きには時間が引き延ばされたかのような感覚がある上に、たとえば夏へと季節が巻き戻るーそんなことだってあり得るのかもしれないと、彼女はフワフワするように感じていた。
唐突に、ハトが大好きなんだと彼は言った。そうしてそれとなく空を、鰯雲が綺麗な青空を見る。そこには何か、重大な秘密をたったいま打ち明けたのだとでもいうようなトーンがあって、思わず彼女は笑ってしまう。「わたしも好きよ、クルルルル♪」ーと、いきなりのキス。ただし、ホッペへの。「びっくりした~」と晴れやかに笑う。「あんまり可愛いものだから」ー「君は桃色の頬をしている」
夜。夢はすべてを曖昧にしていくようだった。たしかに私は鰯雲を見た。そこには"いまは秋です"と書かれていた。だけれど風は、この星のすべてに吹き渡る。だとしたら、季節を横断するそよ風があったっていい。風の神さま女神さま。彼女のちょっとした悪戯が、過ぎ去りし季節からの、桃の香りを運ばせたのだ……
世界は変わり得るという不可思議が、桃色の頬の少女を包んでいた。彼女はその背の、季節を翔る翼を信じた。夢と現の交差点で、彼女の明日が微睡んでいた。