ポエム
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愛のワルツ

いつも僕はあの橋を渡って
君の元へと通っていた
袂には立派な桜があって
春にはしとやかな散り桜に夢見心地で
梅雨にはしっとりとした緑に胸温められながら

あどけない声色はこの胸をとろけさせた
仄かに哀しげなイントロのソプラノ
瞬く間にこの胸の最深部まで届いて

歳が離れてるのが大きかったのかな
それともやっぱり君だったから?
こんなにも幼いんだねって
護りたい気持ち溢れたけれど
1人夜へと遠のく足音
止めることはできなかった

叶うことなら君とともに夜に沈んで
黎明へと向かう明け方
愛を確かなものにしたかったけれど
口を開けば容易い軽口に流れてしまう
そんな体たらくで夢物語

大きくも小さくもない胸の
その奥深くに秘められた琴線
何度衣服をはだけても
胸は頑なに閉じられたままで
うっすらと翳った瞳の底は見えなくて
それなのにスタッカートのように軽快な笑みに
僕は流されるままに酔い続けて

君は覚えている?
逢いはしたものの君が体調不良で
2人天井を眺め続けた
あの薄暗い昼下がりを

"ときどき思うんです。どうしてこんな人生になっちゃったんだろう…って"
あの時の君の虚ろな表情は
今でもこの胸に意味を問わせる
君に出逢ったということの、意味を

「ごめんね」と言ったところで
言葉は軽く飛んでいってしまう気がするから
これから僕は話をしたいと思う

もう君の胸が開かれることはないのだと悟った
あの初夏の午後の小雨の話

"逢うのは今日で最後にする"と僕は言った
君の紋切り型の別れの言葉…それでも
一抹の哀しみが瞳に宿っていたと思うのは
やっぱりこっちの勝手な幻想かな

橋へと向かった僕をクリアな夢が待っていた
夢中のように細やかな雨筋
傘も差さずにひとえに感じ入って
その肌理すらこの掌は覚えている

僕は夢見る
満たされきれぬ2人の物哀しい日々を
あの午後の雨が柔らかく浸してくれる様子を

それは君の織り成していた
あの甘く切ないソプラノの海へと舞い落ちる

パラパラ、パラパラ…その音色が
海の静かなる背景となるほどに
君の哀しみも僕の罪も溶けていく

笑顔の下に隠された哀しみも
その予感を食むように溺れ続けていた罪も

梅雨時の微睡む夢のように
明くる神聖な明日を見つめながら
繋いだ手を空に2人掲げることができたなら

届かなかった君の底で雨音を集めて
愛のワルツを2人しんなりと踊ってみたい


君のことが好きだった


24/08/31 21:09更新 / はちみつ



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