ポエム
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大阪時代
大阪の狭い空の下―いつも足掻いていた
明日こそはドラマを生きるんだって、そうして
けっきょく予感を食むだけの毎日を送って

けれどあのときはまだ、未来は泡立っていた
求人雑誌は宝石箱のように輝いて見えたし
衣服を新調するなりすれば女ウケも良くなるなんて思えた
実際、僕に必要なのはひとえに行動だったのだ

なのに僕は茫漠とした不安に負けて
けっきょく小説家という夢に逃げた
馬鹿げた余裕をこくようになり
「貧しき修行時代」という役柄を恍惚と演じ始めてしまった

でもそんな俳優気取りも長くは続かなかった
書き上がるものといえばこじんまりとした断片ばかりで
それらを無理やりコラージュして前衛を気取っても
その滑稽さに薄々とであれ気づかないわけにはいかなかった

そんななか意をけっして応募したたった2、3の(!)面接にも落ち
僕は打って変わって項垂れ始めた
"俺は小説家になんてなれっこないし、
この街で青春を呼吸することだってできやしないんだ"―

薔薇色の未来を閉ざす鉄製のカーテンが
救いのないような灰色に見えた冬の日に
僕は田舎に帰ることを決めた
23/10/17 08:50更新 / はちみつ



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