ポエム
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秋葉原スケッチ
朝5時の秋葉原に降り立った、20の初夏。

人がときたま通り過ぎると、かえって静寂が染み渡ってくるようだった。日が高くなるにつれ、どこからともなく人々がやって来始める―そのことに、なんだかまるで世界の秘密があるかのような、そんな神妙な大気で満ちていた。未だ何者にもならざる街は、鮮やかに霞んで。

そんな大気と明確な対比を描くようにして、艶やかな真昼が浮かんできた。人、人、人……猥雑な笑みが踊っている。数多の口からは蘊蓄が、喧しいアブラゼミの鳴き声のように漏れ響いてくる。

日が暮れる頃になると人々はリュックを膨らませて、やはりその顔にふやけた笑みを貼り付けたまま、どこへともなく帰ってゆく。この電気街に誰もいない朝があることなど、気にも留めずに。自分たちに帰る場所があることの不思議に、思い至ることもなしに―



自分はといえば、その日の昼には東浩紀さんたちのシンポジウムを観覧することになっていたのだった。未来の哲学的小説家(とでも言おうか)の夢に浸りながら、いまだ一編の作すらもしたためていなかった。

世界というものの洞察からかけ離れていたのは、みなか僕のどちらだったのか。僕はいまでも分からないでいる。いやそもそもとして、その"みな"が、果たして現実の存在なのか、それとも単に僕の胸の中の虚像にすぎないのか、ということから。
23/10/09 10:31更新 / はちみつ



談話室



■作者メッセージ
優越感をもてあました、そんなちょっと痛々しい青年でした。あの日感じたことを思い出しながら、偽らずに書いてみました。そこからいま現在の僕の、みなという存在の分からなさへと繋げてみました。やはりちょっと痛々しかったでしょうか(笑)ともあれ僕にとり、他の人たちのことをどう考えるかということは、ずっと大きなテーマであり続けています。

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