ポエム
[TOP]
オクラハマの風
37年生きてきて、もう分かってるはずだ。住む場所を変えたところで、自分は変わらないと。

でもちょっと思ったりするんだ。たとえばオクラハマの田舎なんかの、果てない平原を吹き渡る瑞々しいそよ風を頬に受けたりなんかできたら、もうちょっと心安らかになれるんじゃないかってね。

ベランダの向こうにはアパートの別棟の、のっぺりとした壁。下の駐車場には車たちが、おっきく無愛想なチェスの駒みたいに停まってる。職場では、日々小さなこぜり合いが絶えない……

この閉塞感を抱かえて、僕はこの先も生き続けていかなくちゃならない―それを思うと、やっぱり空想の布地は温かい。それは僕にとり、緑なす情景、人々の調和した笑顔、生暖かい夜空に輝く満天の星々……そんな理想郷の代替物だ。

だから、そんな風に焦がれながら書く詩や文章は、人やみなに対する祈りでありながら、この自分に対する慰撫でもある。外にも内にも向いている、のっぴきらない切実なベクトル。そしてその矢印はどこまでも丁寧に磨いていけるという、悦び。言葉の森という豊かな森。

僕たちはどこにも行けなくたって、"僕"と"あなた"のあいだにある、その果てない森を旅し続けることはできる。ときには"どこでもないような場所"、みたいな、そんな不思議な哀愁すらも、託しながら。

この世界に言葉というものがあってよかったと、そう心より思う。




23/10/08 08:16更新 / はちみつ



談話室



■作者メッセージ
ちょっと最後の方わかりにくかったかもしれませんが、言葉は自分が生み出したものではなく与えられたものであること等踏まえて、自分の胸の内というよりは、ちょっと手前に浮いている、みたいなイメージで言葉(の森)を捉えてみました。そこから外に内にと伸びていく感覚ですね。

TOP | 感想 | メール登録


まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.35c