ポエム
[TOP]
孤独の街頭
京都にいた大学の頃、僕は毎日のように、街1番の繁華街である四条河原町をぶらついていた。授業に出なきゃという思いがありながら、僕の脚はどうしても街へと向いてしまうのだった。

なぜそうまでして街に生きたかったのか。35になったいまの僕には、もう正確なことは思い出せない。たしかなこととして、授業が退屈で仕方なかったことはあるのだけど。

けれど、街は、街頭は、たしかに僕に、暇つぶし以上のものを連れてきてくれた。僕はそこにいると、初めて自分が自分になることができたような、そんな感じがしたのだ。正確に言うなら、僕はそのとき初めて、あらゆるしがらみから自由な1個の人間として、名もなき存在でいながら、しかし(だからこそ)たしかにここに在るという、そんな強烈なアンビヴァレンスとでもいうべき感覚を身に纏うことができたような、そんな気がした。

そこには心地よいそよ風のような哀しみがあり、そして陽だまりのように微笑ましい誇りがあった。そうして僕はすれ違っていく人々を眺めていた。彼らが僕に新鮮なものを吹き込むと、次の瞬間には、老いというものの相の下に僕は彼らを見つめるのだ。どこからともなくやって来て、どこへともなく去っていく。そうして彼らは広大な時空の狭間に紛れていって、おそらくはもう2度と会うことはない。若い女性であれ老人であれ、彼/彼女は僕の前に現れたのだ、その瞬間の彼/彼女にとっての、あらんかぎりの若さで。

あれから、もう15年。あの日々に20歳だった僕自身は、しかし胸のなか去ることなく、いまもあの街頭を彷徨い続けている―そんな気がしてならない。
23/09/30 07:34更新 / はちみつ



談話室



■作者メッセージ
1年半ほど前の作品(いまは非公開)の改稿です。

TOP | 感想 | メール登録


まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.35c