その一

り、透はまた仲間に入っていけな
いのではという、諦めを感じてきた。小学校の時には臆病で、
弱虫だったので、それを克服したいと思っているのに、やはり、
性格は生まれつきだから治らないのかもしれないと思うと、暗
い気持ちになった。そうすると、今までの嫌なことばかりが頭
に浮かんできた。昼休みに校庭でサッカーをしていて、ミスば
している透に、「透、なにしてるんだよ」とやはり呼びつけに
時の、小柄で坊主頭なのに、目だけが異様に思えるほどの意志
の強さを見せる顔を思い出した。頭も悪い癖に、嫌みのある目
月だった。目の前で、「野球部の先輩は俺が少年野球をしてい
たときの先輩だからよくしっているんだ」と言う進介の声が、
透には遠くで聞こえるように気持ちがした。何かそれが自慢話
のようにも聞こえ、そうすると自分にもなにも自慢できるもの
はないなと不安になった。サッカークラブの先輩も、部活の先
輩にはいるよと、洋も言い出していた。
克美や学もきっと小学生時代から卓球や剣道をしていたに違い
ないと透には思えてきた。一人、竹一だけはその細い体つきや
間の抜けた様子から透と同じように小学校を過ごしてきたかも
しれないと思えたが、そう思うと一緒にされるのも嫌だなと思っ
てしまう、「俺、やっぱり運動部に入るのはやめようかな」と、
竹一が、調子を合せるように野球部と言ってしまったのを悔む
ように、ぽつりと言った。お前、小学校の時から運動オンチだ
ものなと、一緒の小学校だったらしい進介がそうからかった。
透はまた、その集団から距離をとって、よくそんなことが皆の
前で言えるなと、竹一のその顔を半分軽蔑したように見つめた。
透はその輪から一人離れて、机に戻ると、次の授業の教科書と
ノートを揃え始めていた。楽しそうにまだ、部活の話を続けて
いるその声が一段と弾んだように聞こえ、急に上がった全員で
声を揃えた笑い声が透の気持ちを冷たくしていた。透は次の数
学の授業の予習を始めることにした。
授業中に、透はふと先ほどの竹一のことが頭をよぎった。運動
が苦手なら自分から言われければいいのに、小学校のころにな
にも運動をしていないことを自分から喋ったら蔑まれるだろう
なんでそんなことを言うのだろうと思った。自分ならけっして
言い出さないと思うと、その姿が愚かに見えると同時に、その
無神経さが少し羨ましくも感じられた。それが強さのはずがな
いと急いで透はその間違った考えを打ち消した。
次の休憩時間、透は前のグループの輪に加わろうとはしなかっ
た。教室を見廻して、自分の入っていけそうなグループを探し
たが、小学校時代から苦手だなと思った、あの小柄な我の強そ
うな目つきをした少年や問うるが話したことのない同級生ばか
りだった。安全なグループはと見ていくと、3人で大人しく、
ほとんど表情も変えずに話し合っているグループがあった。笑
い声もなければ、零れるうように笑顔が弾けることもなく、ぼ
そぼそと話している様子だった。その暗い印象に、あそこに入
るなら、一人で休憩時間を過ごした方がいいなと透も思ってし
まった。自分があの3人とおなじ種類の人間だと見られるのが
嫌だった。明るい笑い声を上げるでもなく、じゃれつく様子も
なく、大人しくかたまっている姿は、何かじめじめとした陰鬱
な感じさえした。中学の図書室なら小学校の時とは違い多くの
本がありそうだから、昼休みの時間はそこで過ごそうと透は考
えていた。そ
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