黒田陰緒2-2
「私たち、ちょーっとDVD借りてくるから!」
「黒田くんは桃花のことナンパから守ってあげて!」
……は?
待て待て待て。
コイツらちゃんと日本語喋ってる?
グイグイとオレの隣に押しやられてきた間も唖然としてる。
「は、はぁっ!?何言ってんの2人とも!?」
「だってさ〜、桃花って可愛いからナンパされやすいじゃん?」
「私たちだけじゃ守れないよ〜」
ニヤニヤしてそう言う2人に、間の顔がどんどん赤くなる。
チラチラとこちらを見てくるあたり、ナンパの話は嘘じゃないんだろう。
だが、しかし。
「おい。自慢じゃないがオレはナンパから守ってやれるほど肝据わってねぇぞ。」
「うわ、ほんとに自慢になんないね。」
「うっせぇ。」
「まぁ、黒田くんにそんなのを期待してるんじゃなくてね。」
「彼氏のフリしててくれればいーの!」
「「!?」」
間の顔がこれでもかと赤くなる。
オレも若干顔が熱い。
「いやいやいや!オレじゃフリにもなんねーだろ!?」
「そっ、そうだよ!!こんなんとこ、ここここ恋人のっ、フリっ、とかっ!!」
「問答無用!!」
「頼んだからね〜」
「ちょっ」
オレの伸ばした手は、居場所をなくし崩れ落ちた。
――――――――――――――――――――
はぁ…
思わず出るため息。
その瞬間、間の体がピク、と動いた。
「………ごめん」
「え?」
「なんか、こんなことになっちゃって。早く帰りたいんでしょ。」
「まぁ…」
きゅ、と握られる間の手。
唇はなんかきつく噛み締められてて。
下を向いてても分かるくらい、やっぱり間は顔が整っていた。
「…帰っていいよ。」
「んぁ?」
「だからっ、帰っていいって!智とみっこには私がテキトーに言っとくから。」
「……」
いつものオレならここで喜んで帰っていただろう。
でも、オレは間が「じゃー帰るわー」なんて冗談が通じるヤツだとは思えなかったし、なにより言っちゃいけない気がした。
「あほか」
「は、はぁっ!?何急に」
「別に迷惑なんて言ってねぇだろ。」
「っ!」
「オレだって間は可愛いと、思うわけでな。まぁその、なんだ」
「……っ」
みるみると赤くなる間の顔。
みるみると赤くなるオレの顔。
見ないで!目ぇ腐っちゃうよ!?
それぐらい、今のオレの顔はエグイと思う。
「…最後まで、付き合うしよ。帰ったあとナンパされたとか後味悪ぃし。」
「………あり、がと。」
このあとの雰囲気が照れくさすぎたのは、言うまでもない。
――――――――――――――――――
「ただいまぁ〜」
「どーだったお2人さん!」
「おっそっいっしっ!!」
ドタドタと走ってきた女子2人に間が真っ赤な顔で怒鳴った。
もうオレは用済みだろうと歩きだそうとした時。
―グイッ―
いきなり間に後ろから襟を引っ張られた。
「ぐっ!?ごほっごほっ!!お前なぁ…!!」
袖とか裾とかなかったの!?
なんでそんな殺意感じるやり方しかないの!?
振り返った瞬間、オレは息を飲んだ。
「あの、えーっと………今日は、ありがと。………嬉し、かった。」
「へ?」
タタッと駆けていく間の真っ赤な耳を見ながら、オレはしばらく呆然と立ち尽くした。
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