間桃花2

「好きですっ!!つ、付き合ってください!!」

「……ごめん、なさい。」

今日初めて会った男の人の顔が、くしゃっと歪む。
ごめんねと駆けていく後ろ姿に、きゅっと唇を噛む。
ホント、告白なんて凄いなぁと、他人事のように思う。
自分で言うのもなんだけど、私はそれなりにモテる方だ。
でもそれは、いつも外見だけの話で。
ブサイクとか、そんな風に言われるよりもずっとマシなんだけど。

「…はぁ…なんだかなぁー…」

運命の出会いだとか、一生に一度の出会いなんてものは要らないから。
せめて。
外見じゃなく、私自身を見てくれる人に出会えたら。
カシャ、と、もたれた屋上の手すりが小さく音をたてる。
空を見上げると、私の心と同じように薄暗く曇っていた。

―――――――――――――――――――――――――――――

「…………なんでいんの。」

「オレはこのクラスの生徒だ。」

雨が降る前に帰ろうと思って入った教室には、クラス1地味なアイツがいて。
さっきの気持ちが嘘のように胸が高鳴る。

「間こそ、遅くまで残ってたんだな。」

「……まぁ、ね。」

軽く返事をすると、黒田が少し驚いたような顔をする。

「…どうしたお前。いつもの喧嘩っぱやさどこやった。」

「喧嘩っぱやさって何よ…」

今は、そんな気分じゃない。
黒田の横をそっと通ると、黒田が私の方を振り向いた。

「何があったかは知らんが、悩みがあんなら友達なりなんなり相談しろよ。」

お前の場合、なんでも自分で抱え込んじまうんだから。
そう言った黒田が、ふっと笑う。
その姿に、やっぱり私の馬鹿な心臓は跳ね上がって。
帰ろうとする黒田の襟首をひっつかんだ。

「ぐえっ!?ごほっ!!お前なぁ!!今日という今日は…!」

「聞いて。」

「……。」

「……聞いて。」

そう言って見つめた目は、驚くほど綺麗だった。

――――――――――――――――――――――――――

「むぅ…」

腕を組んで難しい顔をする黒田を、そっと見つめる。
そして、おもむろに黒田が顔を上げた。

「…まずさぁ…」

「…。」

「お前、考えすぎ。」

頬杖をついた黒田が、私を見つめる。
そして、優しく笑ってみせた。

「顔が可愛いってのも、他の誰でもない、間桃花の個性だろ。」

「!」

「中身なんて、やっぱり親しくならねぇと分かんねぇし。
でも、中身が全然分かんなくてもお前のことが好きだって思ったんなら、そいつはそれなりに覚悟があったんだよ。」

「……黒田も、外見で人を好きになるの。」

少し間を置いて。
黒田がすっと目を閉じた。

「……少なくとも、初恋の相手は皆から嫌われるようなヤツだった。」

オレが言うのもなんだけどな。
そう言ってククっと笑った黒田が背もたれにもたれた。

「はつ、こい…?」

「ああ。初恋だ。」

もう昔の話だけどな。
そう言った黒田に、私は言葉が出なかった。
15/08/28 20:17更新 / とくとく

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