稲谷美香1
「あ」
「っ!」
今日は、いい天気だった。
ポカポカして、風が気持ちよくて。
少し食後の運動でもと思って、裏庭に出た。
そこには、私が今、1番気になっている人がいた。
「こ、こんにちはっ!黒田先輩っ」
「おう、あのカツアゲにあってた子か。こんにちは。」
相変わらず、顔は怖い。
でも、やっぱりどこか優しくて。
今だって、ふわりと微笑んでくれる。
「先輩は、何かご用事ですか?」
「ん?おう。ちょっとした現実逃避を。」
「え?」
明後日の方向を見て乾いた笑みを浮かべる先輩に、首をかしげる。
「オレは、話す相手がいないんじゃない。話す相手を作らないんだ。」
なんて、ブツブツ言ってる先輩に、思わず笑みがこぼれる。
そんな私に、先輩は少し照れくさそうにした。
「名前は?」
「え?」
「お前の、名前。俺だけ知られてんのも、フェアじゃねぇだろ。」
カァ、と顔が熱くなる。
やっぱり、私はこの人が。
「美香、です。稲谷、美香。」
「稲谷な。また遊びにでも行こうぜ。」
そう言って去っていく先輩をただ見つめた。
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