稲谷美香1

「あ」

「っ!」

今日は、いい天気だった。
ポカポカして、風が気持ちよくて。
少し食後の運動でもと思って、裏庭に出た。
そこには、私が今、1番気になっている人がいた。

「こ、こんにちはっ!黒田先輩っ」

「おう、あのカツアゲにあってた子か。こんにちは。」

相変わらず、顔は怖い。
でも、やっぱりどこか優しくて。
今だって、ふわりと微笑んでくれる。

「先輩は、何かご用事ですか?」

「ん?おう。ちょっとした現実逃避を。」

「え?」

明後日の方向を見て乾いた笑みを浮かべる先輩に、首をかしげる。

「オレは、話す相手がいないんじゃない。話す相手を作らないんだ。」

なんて、ブツブツ言ってる先輩に、思わず笑みがこぼれる。
そんな私に、先輩は少し照れくさそうにした。

「名前は?」

「え?」

「お前の、名前。俺だけ知られてんのも、フェアじゃねぇだろ。」

カァ、と顔が熱くなる。
やっぱり、私はこの人が。

「美香、です。稲谷、美香。」

「稲谷な。また遊びにでも行こうぜ。」

そう言って去っていく先輩をただ見つめた。
15/08/24 11:09更新 / とくとく

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