川内零2
「あれっ、零ちゃんだ。久しぶりだね。」
後ろから、ふと声をかけられて振り返る。
そこには我が校のアイドルと言っても過言ではないあの人がいた。
「黒田先輩、こんにちは。」
そう言って頭を下げると、彼は苦笑いした。
「翔、でいいのに。昔は翔くんって呼んでただろ?」
あはは、と爽やかに笑う彼から、目を逸らす。
昔のことは、あまり思い出したくないのだ。
そんなこと、知ったことではない彼はニコニコして言葉を続けた。
「カゲとは、仲良くやってる?隣のクラスなんだろ?」
頭に浮かぶ、あの死んだ魚の目の持ち主。
ふっ、と、
『零』
そう呼ぶ彼が頭をよぎって、それを振り払うように軽く頭を横に振った。
私たちは、もう。
「あまり、話さないですから。」
そう言った私に、彼は少し寂しそうに笑った。
「……あのこと、まだ気にしてんの?」
ぐっ、と唇を噛む。
きっとこの人は、分かっている。
あの人に、私がどんな思いを抱いて、そしてどんな想いを抱いているか。
「……関係、ないですよ。あなたには。」
「…そーだね。」
ばいばい。
そう言って笑った彼が、ヒラヒラと私に手を振った。
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