2.

あの後、彩ちゃんは私の腕を引いて走った。
久しぶりに触れたところが、凄く熱く感じた。

「……美優紀…やんな?」

彩ちゃん自身に呼ばれた名前に、私の鼓膜が震えた。
私は、こくりと頷くしかできんくて。
ふぅ、という彩ちゃんの溜息に、身体がピクリと動いた。

「あー…なんや。その……元気…してた?」

ポリポリと頬を掻く彩ちゃん。
それは、昔からする、気まずい時の彩ちゃんの癖で。
少し寂しく思いながら、私は作り笑いを浮かべた。

「元気やで。彩ちゃんも元気そうで良かった。」

「ああ…うん。」

続く沈黙。
駄目。やっぱり。
好きなんや。彩ちゃんのこと。
ドクドクと脈打つ心臓。
それでも、また彩ちゃんを困らせないように私は笑い続けた。

「…さっきはありがとう。」

「おお…」

「また変なのが来ぉへんうちに帰るな?」

「…おお…」

くるりと彩ちゃんに背を向ける。
きっと、もう彩ちゃんには会えへん。
やけど、迷惑かけて嫌われるのはもっと嫌やから。
溢れそうになる涙をぐっと堪えて歩く。
その瞬間。

「…美優紀!」

彩ちゃんが、私の名前を呼ぶ。
なるべく自然に。
自然な笑顔で、振り返る。

「どしたん?」

「や…あの…久々やし、さ。美優紀が良かったら…」

飲みに行かん?
不安そうに私を見る彩ちゃんに、胸が簡単にざわついた。

――――――――――――――――――――――――――――

「ん。美味しいな。」

「やろ?お気に入りやねん。」

あれから、ここら辺のことはよく知らんって言う彩ちゃんを連れて小さい居酒屋に移動した。
モグモグとご飯を食べる彩ちゃんの横顔に見惚れる。
そんなときめく胸を抑えるように、カクテルを1口飲んだ。

「あのさ。」

「うん?」

「あの、さ…。」

彩ちゃんの聞きたいことは大体分かる。
私に好きな人がちゃんと出来たかどうか。
彩ちゃんは、凄く凄く優しいから。
自分がふったことによって私に好きな人が出来るか心配してくれてたんやろう。
でも、ごめんな。
私、全然彩ちゃん以外にときめかへんねん。

「……いや。なんもないわ。」

「……そっか。」

コク、とビールを飲む彩ちゃん。
ジョッキを置く音が、妙に大きく感じた。

「…彩ちゃんは、今どこに住んでるん?」

「あぁ…東京で働いてる。美優紀は…まだ地元に住んでるんか?」

「まぁなぁ。特にやりたいことも無かったし。」

「ははっ。美優紀らしいな。」

ちらっと彩ちゃんを盗み見る。
初めよりも幾分か柔らかくなった笑顔を見て、緊張も解けたかなと思った。

「……美優紀。」

「ん?」

「私さ、ずっと謝りたかってん。」

「え…?」

「美優紀に、ちゃんと返事せずに終わらせたこと。」

「っ…」

真剣な彩ちゃんの目。
目を見た瞬間、分かってしまった。
彩ちゃんは、しっかりと終わらせに来たんや。

「私な。彼女がおる。」

「っ!」

多分、彩ちゃんは今日目が合った瞬間に気づいたんやろう。
私が、まだ彩ちゃんのことを好きなことに。
だから、誘ったんや。
完全に断ち切るために。

「……まだ何も言ってへんのにふらんとってよ。」

「…ごめん。」

くしゃっと、笑えてるのか分からない笑顔を見せる。
テーブルの上の、握り締められた彩ちゃんの右手を掴む。
彩ちゃんは、驚いたように目を丸くした。

「好き。彩ちゃんが、大好きやねん。諦めたくても、無理やねん。」

「み、ゆき…」

きっと、彩ちゃんは望んでなかった。
こんな言葉。
でも。でも。

「どうしたらいいのか、もう分から
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