あなただけ:3(※♂化)
「彩っ」
「ん?」
昔は私の方が高かった身長も、今では結構な身長差をつけられてて。
いつの間にか、逞しくて大きくなった背中に声をかける。
「上西」
中学1年生くらいのはじめの方は『恵ちゃん』って呼んでくれてたのになぁ。
昔から親同士が仲良くて、家も近所で。
私達は必然的に仲良くなったわけやけど。
保育園から今までずっと一緒におるから。
私が彩のことを1人の男の子として見るのも、やっぱり必然的やった。
不器用で、でも頼りがいがあって。
そして、誰よりも優しい彩が私は大分前から大好きで。
でも、彩は。
「渡辺さんとは進展あったん?」
「なっ!?」
渡辺さんのことが、好きやから。
今まで一緒に居た中で、こんなに顔を真っ赤にすることなんてなかったのに。
あぁ、私じゃ敵わへんのやって。
悔しいなって。
切ないなって。
それでもやっぱり、好きやなって。
「じ、上西には関係ないやろっ」
そんなことを言われる度に、胸がチクチクして。
そして、「そやな」なんて笑う自分に嫌気が差して。
あの日、偶然見てしまった。
渡辺さんに、傘を貸す彩を。
走り去っていく彩の背中を見つめる渡辺さんの目は、今でも忘れられなくて。
渡辺さんも、きっと彩が好きなんやろう。
初めから、私に勝ち目なんてなかったんや。
「彩は、優しいしそこそこイケメンなんやから、絶対上手くいくで!」
「おい、そこそことか余計やろ。」
ニカっと歯を見せて笑う彩。
ほんまは、誰よりもカッコイイ。
「上西は、そういう人おらんのか?」
「……彩。」
「……え…?」
「ジョーダンでーす。」
ほんまなんやねん!?
そう叫ぶ彩に、背中を向ける。
冗談なんかじゃないよ。
でも、言ってしまったら、彩はきっと私の前から姿を消すから。
せめて、彩が幸せになれるように。
「…まぁ、また何でも相談してよ!精一杯力になるで!」
自分の心に嘘をつく。
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