2.偶然

その日の放課後。

北川は駆け足で近所の本屋に行った。

北川はいわゆる読書家で、最近はファンタジー小説にはまっている。

今日は新しい本を買いに来たようだ。


「あの、すみません…」

棚の前に人が居たので、声をかけて退いてもらおうとする。

すると、その人は北川の方を向き、じっと見た。

「………なんですか?」

北川は軽い調子で尋ねた。

「…あんた……今朝俺に、興味無いって言った奴じゃねえか」

その人は、冷たい目をしていた。

「? あなた、誰?私はあなたみたいな人にそんなことを言ったことは無いけども」

確かに北川は言った。だが、こんなに冷たい目をした人ではない。

もっと陽気な人だったはずだ。

北川が不思議がっていると、その人は静かに口を開いた。

「俺、今日あんたのクラスに転入したんだけど」

「…あー、そういえば転入生居たなあ。名前何だっけ?」

本当に興味が無い故か、「そういえば」「名前何だっけ」という言葉を使う北川。

「…夜坂希依斗です」

「ふーん、なんか女の子みたいな名前」

「言ってろ」

「でもクラスでのあなた、そんなキャラだったっけ?もっと陽気な感じだった気がするんだけど」

思ったことを素直に言った北川。

確かに、学校での雰囲気と今の雰囲気は180°違うと言っていいぐらい違う。

「…それを言うならあんただって、学校と今とで性格違うだろう。さっきあんたを見たとき、一瞬別人かと思った」

「それは…学校ではああいうキャラで通してるし…」

「俺もあんたと同じだろう。こっちが素だ」

なるほど、と納得した様子の北川。

学校での気のいい性格は作られたものであるらしい。


「でもどうして、一度しか見てないのに私がわかったね」

「ああ、そのこと…」

夜坂は、一瞬で人の名前と顔を合わせることが出来るらしい。

学校での性格を演じられるのは、この能力に依るところもあるようだ。

「だって気のいい奴って、そういうイメージがあるだろ」

「確かにー」

「まあそれだけが理由じゃないけど…」

ぼそっ、と、独り言のように呟いた。

「へ?」

聞き逃さずに、間髪入れずに尋ねる。

「だ、だって、いきなり暴言吐かれたら忘れる訳がないだろう」

不意を突かれたように反応する。

「ああ…根に持ってたんだ…ごめんね」

「…もう気にしないから」

夜坂は目線を反らした。


「さて、あんたに一つ頼みたいことがある」

「何でしょうか?」

「俺が本来こんな性格であることは誰にも言うな。以上だ」

「了解、その代わりと言ってはなんだけど、私の性格も言わないでよ?知られたら面倒そうだしさ。いいでしょう?」

「…ふん、いいだろう」

「二人だけのひみつ、ね」

口の前に指を立てて言う。

「…ははっ」

苦笑いを浮かべた。

「それはそうと、なんかいい雰囲気ねえここ」

意地悪そうな顔で笑う。

「妙なことを言うな!」

微妙に取り乱した。


「じゃ、私はそろそろ帰るね。また明日会いましょう。学校で話すかはわからないけど」

「ん。じゃな。俺も帰ろう」

二人は別れを告げ、それぞれの方向へ向かって歩き出した。
15/01/25 01:10更新 / 紅色ここあ

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