2.私のファン

(ど、どうしよー!?)
皆一目散に歩き出す。
私は焦る。
恐らくここにいる人達は例外なく私を知っているはずだ。
さっきまで私を見ていた人も多かったし。

ただ…こんなところ、見放すのが当然よね。
その人がどんな人だったとしても、それは当たり前だよね。
…これが現実なのか。
今まで見放されたことなんて一度もないし、それが当然だとも思っていた。
私は宇宙アイドルという身分に甘えていたのかもしれない。
私は社会の実態を改めて知った。

そんなことを考えて、いざ歩き出そうとすると。
「あーーー!!」
大きな声がする。何だろう。
声の主は全速力でこちらに向かって走っている。
「ウカたんじゃーん!!」
私の目の前30センチのところで急停止し、その…少年?のような人は息たえだえになりつつ私に話しかけてくる。
「ねえ、本物だよね!?本物のウカたんだよね!!?」
「う、うん、そうだけど…君は?」
「ああこれはきっと運命だよ!カミ様!こんなに僕に尽くしてくれるならもっと信仰していれば良かった!」
「……???」
どうしよう、これ止めた方が良いのかな?
そう思ってしばらくすると。
「ごめんなさい。面白くなかったよねー………今の、神とカミ(嫁のこと)をかけたんだけど……あ!その、別に俺に嫁がいる訳じゃないし、そもそもまだそんな年じゃないんだけど」
渾身のギャグが滑ったと見てわざわざ内容を解説するのでますます滑った感じになる。
でもその必死な姿が、私にはとても面白く映った。
「…くくくっ」
「あ!笑ってくれた!…無理して笑ってくれなくていいんだけど」
「ううん、無理してないよ。ふふっ」
久しぶりに心から笑ったかもしれないな。

「それでっあのっ差し出がましいこととは存じてますが…」
「あああの、そんな感じで喋らないでえ」
「は、はいっ。この最終試験、俺と組んで共に合格しませんか?」
えっ?
「そんなこと、出来るの?」
「この試験歴4回目の俺が言うから当然!」
なるほど。
「つまり浪人生と」
「言わない方が助かるなあ」
なんだか面白そうなので私は返事2つでOKした。

「ああ、ウカたんと組めるなんて、これまで俺が落ちてきたのはこれのためだったんだね!感謝!」
そういえばこの子の名前を聞いてなかった。
「ねえ、君はなんていうの?」
「俺は高山遼太。簡単に説明するとウカたんのファン」
やっぱり私のファンの子だった。
「んで、地球の中の日本の中の仙台ってところに住んでる」
「タ、タカヤマリョータ?っていうの?んで、セ、センダイって何…?」
「おー、見事にイントネーションが。ちなみにセンダイという魚はないからな。それにしても自分の大好きなアイドルに自分の名前を呼んでもらえるっていいなあ」
「りょ…リョー!じゃあこれからリョーって呼ぶ!」
「ありがたいなあ〜」
リョーは幸せそうだ。
15/03/06 22:45更新 / 紅色ここあ

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