その二

の部屋に入った。戸惑いも、遠慮もなかっ
た。透の生活を観察するようなしぐさも見せ
なかった。まあ仕事とはそういうものかもし
れない。お金をもらっているとはそういうも
のかもしれない。彼女と二人きりなのに透は
退屈していた。あの店で裸の彼女を見ている
ときとは、明らかに違っていた。別に緊張し
ているわけでも、急に彼女が魅力のないもの
になってしまったわけでもなかったのにだ。
 そのため、部屋に入るなり、透は次の言葉
を戸惑いもなく言うことができた。
 「じゃ、服を脱いでね。部屋にいる間は裸
わ見せて。」
 当然といえば当然だったが、蝶は少しの戸
惑いも見せずに、透も彼女はそうするだろう
と思ったが、その通りに、今日着てきたワン
ピィースに指を向け、それを脱ぎ始めた。ボ
タンを外すために彼女は少しうつむいたが少
しも恥ずかしそうではなかった。
 「今日は、家の人には何と言ってきたの。」
 「仕事だってよ。」
 嫌そうな顔もせずに彼女は答えた。ワンピ
ィースを脱ぎ、下着だけの姿になった。
 「下着も脱いで。」
 彼女は下着を外そうとして、また、表情を
透から隠す形になったが、やはりそれも感情
とは無縁の動作だった。透も彼女のことを聞
くのはそれ以上はよしにした。それは、透に
は関係のないことだ。ただ、彼女の指の動き
だけを見ていた。服を脱ぐその動作だけを見
ていた。
 「下もね。」
 柔らかな彼女の体の曲線が現れ、服の上か
らでははっきりしなかったその平面の裸は、
思ったよりも白い体だった。光をあまり浴び
ていないというより、内側から柔らかな光が
発している、そう、彼女の体自身が静かに発
光しているみたいだっだ。透は、ソファーに
身を沈めながら、そんな彼女を見た。蝶の指
だけが淡々として動き、下着は簡単に彼女の
体を離れた。ただ、それだけだった。
 「舞ちゃんもそこに座って。」
 ちょっとうなずいて彼女は、そうした。全
裸であることが少しも不自然でないのが不思
議だった。そのために、彼の言葉はまったく
余分だった。
 「家に来たら、服を脱いで下さい。あとは
好きにしてていいから。」
 彼女は黙ってうなずいた。それが彼女のや
り方なのだろう。
 「そこに座ってて。」
 全裸の彼女は膝をそろえて、透の正面に座
り、そうして見ると、やはり彼女はかすかに
丸みを持ち、透がそう思えば柔らかな女性の
体にも見えた。
 「何か作るよ。一緒に食べて。」
 透はそういうと立ち上がった。
 後は、いつもと、同じだった。帰ってきて
から、夕食を食べ、ちょっと休んで、すぐに
時間が過ぎてしまう。違うのは、そこに裸の
彼女が座っているだけだった。
 裸で彼女がいるのにいつもと同じように透
はしていて、なぜか、その裸に触ろうともし
なかった。不思議にそうしたいと思わなかっ
たのだ。それは、一人でいるときみたいに気
楽な時間だった。女性と一緒なのに堅苦しさ
は少しもなかった。彼女は帰るまで裸でいた
のに、その間、透は少しも裸の女性を意識す
ることはなかった。また、蝶も協力的で、背
中をまっすぐにした姿勢を崩さなかった。
 彼女がようやく動いたのは帰るときで、透
の、
 「また、明日ね。」という挨拶に、頷きな
がら笑顔を返した。それはどこにでもいる女
性の表情で、そのため、透には時間には家に
戻りたいという彼女の理由が、もしかしたら、
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