その一7

と彼女は
その紙の車に透を誘った。
 その余りの薄さに、どう考えてもその車が
空間を所有しているようには見えなくて、透
はそれを断った。扉をあけると向こう側、乗
ろうとするとあちら側に落っこちてしまう、
そんな感じなのだから、用心しなくてはなら
ない。道路の上に転がってもみっともないし
ね。結局、喫茶店でお茶でも飲みながら、と
いう事になった。
 話をしているうちに、蝶の自動車の薄さが
彼女自身の薄さと同じなのに透は気づいた。
昨日と違って服を着てしまうと彼女は、普通
の女性と変わらなく見えたが、確かにそうだ
った。着痩せするというのがあるがその逆だ
った。いや、ちょっと違う。それは、他人に
対して本当の姿は見せないということだ。他
人が見ているのは他の女性と同じ彼女の上辺
だけ、ということだ。それが一番楽なのだか
ら、それでいいのだ。誰も非難なんて出来や
しない。
 蝶の話は、昨日店の男が言ったのと同じで、
まず、金を渡してくれるようにと彼女は言っ
た。封筒に入れたそれを渡すと、確認しても
いいと透に言い、蝶はゆっくりとその中身を
数えた。それから、透は彼女に彼女の条件を
聞いた。店とは違った彼女の都合があるかも
しれないと思ったのだ。彼女が言ったのはご
く当たり前のものだった。家族といっしょに
住んでいるので、彼女の年齢からして、まだ
父親も母親も元気なのだろう、外泊はできな
いこと、また、決まった時間には帰りたいと
いうこと、それが彼女の条件だった。 
14/04/30 00:27更新 / あきら

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