その一7

っきりとした目の前の彼女たちの裸を
見た。不幸なことに、その裸身は部屋の中で
唯一、はっきりとした輪郭を持ち、それは美
しかったが、みな同じだった。お金で換算さ
れてしまう裸の美しさと不幸をそれは表して
いた。形のない体から、手が伸びて、彼女を
誘った。店のほうと話ができたのだろう。男
の顔は見えない。年格好さえも闇の中ではっ
きりとしない。ただ、彼女の手を引き、彼女
の美しい裸を透の前から消し去ってしまった。
ライトの中のソファーの赤だけを残して消え
てしまった女性が、顔さえも確認できなかっ
たはずの裸の彼女が透にはひどく美しい女に
思えた。また、次に、現れる裸の女性も同じ
に思えてしまうはずなのに、消えていく女性
は美しく感じられた。
 残された女性を透は、暗闇の中で、体の力
を抜いて見ていた。天井からつり下げられた
両腕の付け根は柔らかい窪みとなり、その腕
の内側もまた、とても白く、美しかった。天
井からの戒めで、その裸はだらりと垂れ下が
り、その弾むようなバストをつきだし、赤色
ばかりの中で唯一違う色を見せるその体は確
かに魅力的なのに、やはり前の誰かと同じ体
だった。女の体が静かに半回転して、その背
中の滑らかな曲線を示している。美しい曲線
が輝いて見えた。
 音楽が鳴り止んで、吊されていた彼女が降
ろされた。絨毯の上で、彼女は天井にと上げ
ていた両腕をだらりと下げ、横坐りになった。
 いつもより早いのに、時間かなと思ってい
ると彼女のその裸身に、柔らかなバストにロ
ープのようなものが巻きつけられていった。
張りをましたバストは、その透明感をました
バストは美しいのに、やはりそれだけだ。こ
の前の女性とどう違っているのか分からなか
った。「セックスと同じだな。」透は思った。
みんな繰り返しにすぎないんだ。その裸身は
綺麗に縛ら、その両方の太ももの間では、セ
ックスも可能だろう、でも、それだけだ。い
つもと少しも違わないんだ。
 静寂の中で新しい女が登場してきて、ひど
く色の白い裸が透の目に入った。一人が連れ
出されたためにもう一人なのだろう。年齢は
前の女性よりも若いかもしれないし、同じ位
かもしれない。髪が豊富で背中まであった。
だが、その女性が透の興味を引いたのはその
ことではなかった。彼女の体の薄さ、細さで
はない、その薄さだった。それにはほとんど
厚みというものがなく、そう言ってよければ、
体が平面だった。先程、客に連れ出された女
とも、いまソファーに残された女とも甲乙が
付け難いほどに美しいのに、その体からは不
思議なほど凹凸というものが消えていた。 
 明かりの下に、店員によって引き出された
裸体はそのバストも、腹部も、その両方の太
股もその丸みが、もう一人の女性のそれとひ
どく対照的だった。すべては平らに近かった。
いい女であることには違いなかったが、先程
に連れ出された女性とも、いまソファーに残
っている女性ともどちらともいい難いいい女
ではあるのだが、不思議なほどその身体には
凹凸というものがないのだ。美しいバストな
のだが、美しい腹部なのだが、美しいヒップ
なのだが、それは柔らかな光のみ反射して、
人間の女性がもつ肉体の丸みを置き去りにし
ていた。光の反射の具合によって、それが凹
凸を、丸みを少しは残していることは見てと
れたが、普通の女性の丸みからは、やはりひ
どくかけ離れていた
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