11.
ただの真っ白い空間に、俺がただ一人佇んでいた。
ふと感じた背後からの気配に後ろを振り返ると、何かに抱き締められた。
微かに震えるそれは、よく見れば松澤さんだった。
『…置いて…行かないで……』
震える声で途切れ途切れに松澤さんは呟いた。
『独りに…しないで…………』
俺はごめん、と誰に言うでもなく呟いて、その背中をさすってやることしかできなかった。
途端に、松澤さんは俺から離れた。
『もう…優しくしないでくださいっ!
…その笑顔は……偽りなんでしょう…?』
驚いて顔を見れば、松澤さんは泣いていた。
『もう優しくなんてしてくれなくていいんですよ……!
私の気も、知らないで……!
偽りの優しさをくれる位なら、もっと痛めつけてくれた方がいいのに…!
拒絶して、突き放してくれた方がいいのに………』
何を…言ってるんだ?
俺は…偽りの優しさを向けた覚えなんて…
いや、あるかもしれない。
本心だと思っていたけれど実は、
俺はただ先輩としての責任感からいつも励ましたりしていたのかもしれない。
『私のこと好く思ってないなら、存分に痛めつければ良いじゃないですか…!』
『違う、俺は…』
『何が違うというんですか!?』
俺の言葉を遮った松澤さんの気迫に押されて、俺は何も言えなくなってしまった。
『分かってるんですよ、私といて楽しくなんかないって、知ってるんですよ?
それなのに楽しそうなふりして…
私のこと微塵も心配してないのに
心配したふりをして私を慰める…
先輩だから、っていう責任感からそういうことをするのであれば、もうしないでくださいよ…!』
『……。
心配位、俺だってする。』
やっと言えた言葉は、それだけ。
『…それに…松澤さんを好く思ってないなんてことない。
嫌いなんかじゃない…』
『嫌いじゃないなんて言葉、私に信じろと言うんですか?
私に信じられると思ってるんですか……?
先輩だって知っているんでしょう!?
私が…人を…信じる、なんて………』
そうだ、確かにそんなこと、前に言っていた記憶がある…。
半年ほど、仲良くしてくれていた友達から苛められた、と。
もう人の言葉なんて、よっぽどじゃないと信じられないって…
けれど、その後、言ってくれた言葉は…嘘だったのか………?
『…こんな想いをするぐらいなら、いっそ出逢わなければよかったのに………!』
『松澤さん…!?』
目が覚めた。
嫌な汗を全身に掻いて、気持ちが悪い。
あぁ、駄目だ。
昨日あんなに散々悩んだからこういう夢を見るんだ…
そうだ。
今更松澤さんの本心なんて知ってももう遅い。
だから…こんなこと、考える必要も、
こんな夢の事とかでいちいち悩む必要もないはずだ…
それなのに。
なぜか心が刺さるように痛かった。
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