「お話」22.
「蝶の言葉が、私には鋭く突き刺さった。
心が、痛かった。
そうだよ。
本当は、わかってる。
このままじゃ、いけないんだって。
過去に囚われるだけじゃ駄目だって。
わかってるんだよ??
けどね。
それを見透かされるのが嫌だった。
私の本当の思いを言い当てるようにただ捲し立てられて。
嫌だったんだ。
自分の気持ちにずけずけと踏み込んでくるのが。
認めたくなかった…
何だかんだで、蝶の言うことが正しいってことを。
…もう。
あんな蝶…さっさとどこかに行けばいいじゃない。
私なんか…ほっといてさ。
顔も…見たくない。
蝶は、しばらく何も言わなかった。
私の言葉に、動揺しているのだろうか……
やがて、思い出したように口を開いた。
『…お前は、【輪廻】を知っているか?』
勿論…知ってる。覚えてる。
〜また、松崎さんやみんなに、会いたいから〜
そう頭に鳴り響くあの声を。
『生き物が、死んだとき…生まれ変わってまた生を受けること…でしょ?』
『そうだ。』
『お前はそれが実在すると思うか…?』
前世。来世。
そういうものが存在すればいい。
きっとまた会える…
その希望に繋がるから。
だから。
『あればいいと…思うよ。』
『そうか。
ならば、私の役目はもう終わりだ。』
えっ……
『もうお前は私を必要としない。』
『ちょっと待ってよ!!
私がもうあなたを必要としないって…』
どういうこと…?
『お前は希望を取り戻した。
未来への希望。
明日への希望。
生きる、希望をな。』
そう言った蝶の声は、どこか安心したようだった。
『それに、今のお前なら。』
蝶は、空を見上げて言った。
『もう、真実を受け入れられるだろう…?
もう、絶望に悲しむこともなく、
齋藤の次の生を待ち続けることができるだろう…?』
うん、と私は頷いた。
『ならば、もう私の出る幕はない。』
『ねぇ。
貴方は、役目が終わったらどうするの…?』
まだ聞きたいことがたくさんあった。
『どうしてこんな私を助けてくれたの…?』
絶望の海に沈んだ私を、どうして救い出してくれたの?
そして。
『貴方は、一体誰なの………?』
言い終わってから、私は自分が泣いていることに気が付いた。
それが嬉しいからなのか、寂しかったからなのか、それ以外なのか。
私にはわからなかった。
「『私が何者なのか…
それは私にもわからない。』
『え?』
フィレモンは、少し考えながら、ゆっくり話した。
昔、自分が人間であったこと。
何らかの理由で命を落とし、気がつけばこの姿になっていたこと。
人間だった頃の記憶はほとんど覚えていないこと。
『私が覚えていることと言えば…
そう、まるでお前みたいな奴が側にいたということしか、覚えていない。
お前のような…優しい少女が、な。』
『……。』
『私が何者であったか…か。
考えても見なかったな。
いや、もう考える必要もない。
私はもう、この世に必要ない。』
『え!?』
必要ないって…どうして。
『私はお前を助けるためだけに作られた。
だからお前が私を必要としない以上…
私はもう要らない。』
『ちょっと……!』
待ってよ。
私はまだ…
『…さらばだ、心優しき少女よ。』
蝶はふわりと浮かんで、
そのまま空高くへ飛んで行き…
そして、消えた。
蒼く、蒼く澄み渡った空。
一際強く輝いて消えていった蝶の姿は
どこか、安心したように見えた。
私の心も
あの空のように澄み渡っていた。」
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