8.
3日目。
珍しく朝早くに目を覚ました俺は、いつものように二度寝を試みてみる。
…寝れない……
仕方なく起き上がる。
怪我はもうほとんど治っている。
包帯もほとんど取れた。
本当は部活に行ったりしたいけれど、まぁそこは我慢…
「ふぅ…暇だ」
朝食までまだ時間がある。
もう一度横になると、ふと昨日のことが頭に浮かぶ。
『そもそも齋藤先輩いないときいっつも元気ないよね』
『そんななんでもわかったような顔しないでよ……!』
『だーって最近の由紀ちゃん、口を開けば先輩先輩ーって。
それで好きじゃないほうがおかしいと思うよ。』
『先輩の…寝顔が……可愛かったからです』
『答えはもう…わかりますよね?』
『やっぱり、由紀ちゃんって齋藤先輩のこと好きなんだね』
本当に、そうなんだろうか。
もしそうだとしたら、今まで俺に仲良く接してくれたのも、そのせいなのか?
ただ恋愛感情の赴くままに俺と接していたのか?
俺の話を真剣に聞いてくれてたけど
実はただ俺の事が好きだから、嫌われないようにとそういう態度取っていたのか?
…周りの思い過ごしであればいいのに。
この話…本当なのか……?
もしそうであるとしたら、俺はどうしたらいいんだ?
想いに答えるなんてできない。
残りの短い間、松澤さんを傷付けるなんて事、俺はしたくない…
でもだからといって何も言わずここを去っても、それはそれで松澤さんを悲しませるだけ……
どうしたらいいんだ………?
午前5時。
あいつはもうそろそろ起きてるはずだ。
俺は携帯を開いて、メールを打った。
この不安な気持ちを拭えたらいい、そう思って。
送信して数分で返信が来た。
『俺は知らん。
けど、あの動画の一時間後ぐらいに、
「男子なんて……齋藤先輩なんてだいっきらい!!!!」ってうちの一年に向かって言ってるのを見たっちゃあ見たかな。』
『そうか、ありがとう。』
短くお礼を打って、送信した。
松澤さん…もしかして、無理してた?
あくまで「いい後輩」を演じていた?
俺の事が嫌いなのに、無理して仲良いふりをしてた?
そしてその演技が上手過ぎて、周りを勘違いさせた…?
そして、昨日も一昨日も、俺の所に来てくれたのは、まだその演技を続けているから……?
…まさか、な。
けれど、そうしたら辻褄があう気もする。
1週間ぐらい前に、松澤さんが言っていたのを覚えている。
『男子なんて…大嫌いです。
…あ……先輩は、例外ですよ?』
例外って言っても、俺を傷付けないようにするためだったのかもしれない。
松澤さんは優しい。
いつもいつも、人を傷付けないようにと注意を払っている。
だから例え俺が嫌いでも、
俺を傷付けないように『演技』してしまえば良いのだから。
…あれ?
なんでだろう…?
松澤さんが俺のこと嫌いだって結論にしたい筈なのに。
そう考えるのが一番自分にとっても簡単な筈なのに。
なんだろう。
ちょっとなんか…胸が苦しいような…変な感覚。
携帯の着メロが鳴る。
『けど、松澤さんが齋藤のこと嫌いって事はないと思うぞ。
だって、あんなに心配してるし、毎日そっちに顔を出してるらしいし。』
その返信に俺は安心したのかどうなのかは、自分でもよく分からなかった。
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