6.

それから毎日毎日、松澤さんは俺のところに来てくれた。

1日目。
松澤さんと話しながら、
10日間という短い期間、俺には何ができるだろうと必死に必死に考え続けた。

この世界に帰ってきてから最初に見た松澤さんの顔を見て、
「俺はまだこの世界を去る訳にはいかない」って、そう強く思った。
……そんなこと、俺は今まで一度も、思ったことなんて無かったのにな…。

しばらく黙ってしまった俺を、松澤さんは不思議そうに眺めていた。
少し心配そうに、そして、俺から少し距離を取るような目付き…
そこら辺は、悲しいけれどいつもとあまり変わらない…。

やっぱり松澤さんが距離を置こうとするのは、
あの時のことがまだ引っ掛かってるからだろうか?
だとしたらやっぱり、俺は松澤さんに謝らないといけないな…

よいしょ、と身を起こす。

シュニーの計らいか、それとも治療のお陰か、
俺の怪我はまだ直ってはいないものの、
ある程度体を動かせるまでにはなったし、痛みもない。
…包帯が邪魔に思えるのは変わりないけどな…。

「ごめんな、松澤さん」
俺は一言、呟いた。
「…何が…ですか??」
またもや不思議そうに俺を見る松澤さん。
俺は松澤さんの目を見て言った。
「俺も、先輩だからって少し調子乗りすぎたのかもな。
チビ、なんて言ってごめんな。」
松澤さんは静かに首を横に振って、
「私も少し強引でしたよね、すみません…」
そう言って、微笑んだ。

「…無駄にでかいよりも、小さい方が可愛いと思うけどな。」
そう、ふと思った事を口にしてしまって、しかもそれを松澤さんに聞かれてしまった……
「…けど、背が低いのも…不便ですよ」
少し拗ねたように松澤さんは呟いた。


「………目線、同じ……?」
そうふと呟いたのは、松澤さん。
……松澤さん、座高高くね?
身長差が15cmぐらいあるなら、そこそこ差があってもいい筈なのに…
松澤さんと俺の目線の高さは、完全に同じだった。
「……確かにな。
まぁ、いいんじゃない?そういうのも。」


そういうことでぐだぐだ悩むよりも、
残された僅かな時間を精一杯楽しみたいからさ。
「落ち込むなよ。
もーちょっと明るくいこうな?」

そう、いつものように。
また、二人で笑っていたい。


時間が経ち、松澤さんは帰っていった。
誰もいなくなって、狭い病室に、ただ一人。

松澤さんがいないと少し寂しい、
そう思ってしまったのはきっと、
さっきまで松澤さんと喋ってたから…

そういうことにしておこう。
14/06/11 20:59更新 / 美鈴*

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