21.
「でも……さ。
いつまでもそう悲しんでても、誰も喜ばないよ……齋藤先輩だって、きっとそんな由紀ちゃんなんて見たくないって思ってる」
山本さんが必死に松澤さんを慰めているけれど……
「……先輩が、もういないっていうのに、それでも明るく楽しく生きろって言うの……?」
…効果がほとんどないみたい。
「由紀ちゃん以外はみんなもうほとんど立ち直ってるよ。
あとは…由紀ちゃんだけなんだよ?」
「もし部活にいるためには明るくなくちゃダメって言うんだったら、私は部活辞めるよ」
「由紀ちゃん……!」
しっかりして、と山本さんは言った。
「由紀ちゃんは今までなんで部活やってきたの!?齋藤先輩がいるから?
違うでしょ!」
松澤さんは山本さんからすう、と離れると、
「……ごめん。
…もう、その名前…齋藤先輩のこと、口に出さないでくれるかな?
私……もう、先輩のこと…
忘れたい訳じゃないけど、でも………。」
そう言った。
とても、悲しそうな顔だった。
すべてを諦めてしまったような、哀しそうな顔だった。
「……思い出したくないんだ。」
「そう………。」
そう言って、山本さんは松澤さんから離れていった。
「……はぁ。」
松澤さんは一人ため息をつくと、
自分の机に戻って教科書を広げた。
松澤さんは部活にも行かずその日は下校した。
おかしいな、とカレンダーを見たら水曜日だった。
まぁ、確かに今日は部活がない日だ。
部活行かずに帰るのは当たり前だよな、うん。
…まぁ、暇だしついていくか。
家に帰った松澤さんは、パソコンを立ち上げると、動画サイトを開いて音楽を聞きながら何かを調べていた。
調べていたのは
輪廻についてだった。
亡くなった生物がまた新たなものとして生まれ変わる、それを繰り返すことだったか。
なんでまたそんなこと、考えてからはっとする。
まさか。
再び出会える可能性っていうのを模索してる??
なんてまさかなぁ。
おれどんだけ自意識過剰なんだよ…
嘘になってしまえばいい……
流れる動画から紡がれるメロディに耳を傾けていると、
そんな言葉が聞こえてきた。
「全て忘れて戻りたいの……」
松澤さんが曲を口ずさんでいた。
なんだか聞いていて切ない気持ちになってきた。
「どうか。どうか……」
…その歌声が、
俺のことをもう忘れたいと言っているみたいで、
なんだかとても悲しくなってきた。
…そばにいてやりたい
俺ならここにいるよって
言ってあげたいのに。
…俺の死が松澤さんを苦しめるのなら
いっそ俺は生まれてこなければよかったのかな……。
松澤さんと出会うことがなければ
こんなことには、ならなかった筈なのに……。
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