19.

『決断を…早く………
それが………あの子のため………
先に………進ませることを……………望むなら……………………』

目が覚めたら、見たことがないところにいるような気がした。
けれど、頭の動く範囲で見回したら、そこはいつもの病室で。
ただ、いつもより少し、機械が多いだけ。
いやもう心電図っつーの?
あーいう規則的にギザギザな線描いてるやつとかそういうのもあったり……

…最初にここに来たときと同じだ。
色々なチューブやらなんやら。
さらには人工呼吸器まで…

目を開けた俺に気がついたのか、辺りがどよめく。
看護婦の一人が、俺の呼吸器を取り除いた。
医者が一人、近付いてきた。

「残念ながら、あなたの命はもう一時間と持ちそうにありません。
……最後にお会いしたい方は、いらっしゃいますか?」
いやそんなあと一時間以内に死ぬよなんてはっきり言っちゃっていいのかよ。
…とか思いつつ、一人の名前を口にした。

体を動かしてみようとするものの、
ものすごく体が重くて、ろくに動かせない。
これじゃ、起き上がるとか無理だな。

そんなことを考えていると、階段を誰かが駆け上がる音が聞こえた。
きっと俺が呼んだ人だろう。
それにしても馬鹿だな。エレベーター使えば良かったのに。
わざわざ7階まで全力で階段ダッシュなんて、俺にはたとえ元気だとしてもできねーな……。

少し外が静かになった。
そして、控えめなノックの音。
「どうぞ。」
俺は静かに答えた。

中に入ってきたのは、階段を駆け上がってきたからかな、顔が少し赤くなっている松澤さんだった。

おいおい。
「今にも死にそうな顔してるぞー大丈夫かー?」
そう声をかけると、松澤さんは疲れた顔でえへへ、と笑った。
まぁ、きっと俺も人のこと言えねえだろうけど。

俺のそばにいた医者が松澤さんの存在に気が付いた。
椅子を差し出して、医者はさっさと部屋を出ていった。
気が利くな。
まぁでも、病院なんて結局はサービス業だし、それは当たり前か。


松澤さんが椅子に座った。
「来てくれたんやな。ありがとう。
……いきなりごめんな。」
「えっ…あ、いえ………。」

…沈黙。
どうしよう。会話が続かねぇ。

「……例えばさ。よくあるドラマのこういうシーンでさ。」
少し話を切り出してみる。よくない展開に持ち込みそうで不安ではあるけど。
「まぁ、ドラマの場合、ここにいるのは恋人同士だったりするけど…」
言ってて何が言いたいのか分からなくなってくる。
つか何言ってんだ俺。
「……まぁ、愛を囁きながら死んでいくのが定番ですよね。…こんなこと、今は冗談でも考えたくありませんが。」
いや、話合わせてくれるのは嬉しいけど。
どんどん良からぬ方に進んでない??
「ああいうの実は俺結構憧れてんだよね」
えっ、と松澤さんは驚いたような困ったような顔をする。絶対引いてる。
「実行したいとか止めてくださいよ」
いやちょい待ち。
「…やりたいとは言ってねーよ。
ただ…」
「…ただ?」

「なんかこのまま終わるのも、なんかおもしろくねーんだよな。」

その言葉を聞いた松澤さんは、戸惑ったような顔をしながら少し考えてから、俺の手をふわりと包んだ。暖かい…
……って
「何やってんの!?」
「え、いや……」
松澤さんは少し照れている。

「その…ドラマチックな終わり方と言ったら、こういうのしか思い付かなくて……
あっ不快でしたか!?すみません!」
俺と目を合わせずに言った松澤さんの顔はまだ少し赤かった。
松澤さんは慌てて俺から手を離そうとした。
…気が付けば俺は、離れか
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