「お話」9.

「……先輩に、会いたい。
先輩の声が、聞きたい。
先輩と、話したい。
先輩の笑顔が…また見たい。



………そうだ。

もし死後の世界があるのなら…
きっとそこに先輩はいるよね?

そうか。
なんて簡単な事だったんだ……


私がもしこの世から消えれば。
先輩と、また会えるんじゃない…。


…先輩が亡くなって、2週間。
私の成績は、上々。

なぜって…
先輩の事を少しでも考えてしまうと…
……涙が溢れて、止まらなくなるから。

忘れようとして。
考えないようにしようとして。

毎日、朝から晩まで、勉強机の前に座る。
…勉強は嫌いだけど、気を紛らすのには、丁度良かったから。

周りからは、真面目になったと、そう褒められた。
けれど……


そんなことを考えだす位、私はおかしくなっていたんだ。


…休み時間。
私は、屋上に足を運んだ。

…辺りには、誰もいなかった。
私は、その静かな空間を、爽やかな風を。
少しだけ、楽しんだ。


……懐かしいあの頃を思い出す。

二人でこっそり、屋上に出てきて。
二人でただ青空を見上げた事。
星空を見上げた事。

…幸せだった、あの時を……



……さて。
この景色を見るのは…これで、本当に最後になるかな?

…学校で飛び降り自殺なんてね。
学校にとっては迷惑極まりない行為だとは思うんだけどね。

…まぁ、それでも、いいんだ。

私は、何の躊躇いもなく、柵の上に立ち上がった。
『……いい風。気持ちいい……』

……今から死のうとしてる人が言う台詞じゃないな。うん。
…まぁそんなこと、どうでもいい。

…あとは、足を一歩踏み出せば………


『……なぁ。』

……まただ。

『なぁ、松崎さん。』

…また……聞こえる。

『輪廻…って、知ってる…??』

死のうとする度に聞こえる。


『輪廻…って、生き物が死んだ後に、また別な人や物に生まれ変わる事を言うんだってさ。』

毎回同じ台詞の、先輩の声が。


『けれど、自分からその命を絶った人は。』

…この声が。

『輪廻のサイクルから外れて、もう生まれ変わる事はできなくなるんだって。だからさ。』

…この、声が。
この、言葉が。

『……自殺なんて、するなよ…?
俺は、また来世で、松崎さんやみんなと会いたいし…』

…いつも、私を、迷わせる。
いつも、私を止めようとする。


……なんでよ。

…なんで、こういう時に、思い出しちゃうのさ……

『もう一度言うけど。
来世で会いたいから……決して、自殺なんて…するなよ?』

そう言って、笑った先輩の顔を。
そして。

『俺は……松崎さんが自分から死んだなんて知らせ、聞きたくないからな。』

そう言って、すごく真面目な顔をした先輩を。



……だめだ。

いつもと同じ。

最後の一歩が、踏み出せない。

涙が……止まらない。

拭っても拭っても……

視界は、涙で滲んで見える…。


ちょうどその時…。

『…由紀ちゃんっ!?』

バタン!
ドアを勢いよく開ける音と、私を呼ぶ裕里ちゃんの声がした。
『……そこで…何してるの……!?』

私は、裕里ちゃんの手によって、無理矢理引きずり下ろされた。


…ああ……

…もぅ、嫌なんだ。

何もかも、何もかも。

このセカイのコトガラ。

何もかもが……」
14/06/11 23:12更新 / 美鈴*
作者メッセージを読む

前編へ 続編へ
TOP 目次
投票 感想 メール登録
まろやか投稿小説 Ver1.53c