「お話」5.
「……急いで病院に駆け込んで、先輩のいる702号室を目指した。
真夜中の病院。
怪談とかでよくある何かが出そうで少し怖いけれど、
今はそれどころじゃない。
それよりもっと、私にとって怖い事が、
私を待ってるかもしれないから……。
私は、エレベーターの存在をすっかり忘れて、7階まで階段を駆け上がった。
しかし、私は元々体力がない上に、
おまけに貧血なので、
むしろ私が死にそうな状態になる始末…。
あぁ、頭がくらくらするぅ……。
酸欠、かな……?
そう言えば医者から、運動するな、って言われてたっけ……?
部活も本当はやっちゃダメだったんだっけ…?
医者の言うことはちゃんと聞かないとな……
うぅ。倒れそう………。
そんな状態になりつつも、なんとか先輩のいる病室にたどり着いた。
深呼吸を何回かして色々と落ち着けた後、
コン、コン……
ドアを静かにノックしてから、部屋に入った。
部屋に入れば、前までなかった少し大きめな機械が置いてあって、規則的に、波の絵と『ピッ』という音がしていた。
…これは、心電図…ってやつですか……?
これがある時点で、ドラマとかだと死亡フラグ立ちまくってるよね??
…って事は……
先輩は今、死にそうな状態…って事……?
先輩の寝ているベッドの脇にいた医者が、私に気が付くと、
『…松崎さんですか。どうぞ、こちらへ。』
そう言って、椅子をひとつ、ベッドの隣に置いた。
私がそこに座るのとほぼ同時に、
齋藤先輩は、目を覚ました。
『……先輩…?』
『…松崎さん、来てくれたんだな。』
そう言って、微かに微笑む先輩は、とても弱々しくて……
何か言いかけた口を、私は閉じた…。
『……あのさ。』
先輩がふと思い出したように、呟いた。
そして、手を差し出して、言った。
『……手、握っててくれないかな……?
俺……なんか、怖くてさ……』
私は、戸惑いを隠せなかった…。
…先輩って、こんな人だったっけ?
いや、違う。
先輩は、こんな弱音を吐く人じゃなかったはず……
私の知ってる先輩は…
怖い、なんて…
こんなこと言う人じゃ…なかった…
けれど。
寂しそうに揺れる先輩の瞳を見て、
何かに怯えているように微かに震えている先輩の手を、
私は両手で優しく包み込んだ。
『……ありがとう。
…俺さ。ずっと、してみたかったんだ。こういう事。』
ずっと、このままでいたい。
そう思ったのは、
『もう少しだけ…こうしててくれる…?』
私だけじゃない。
そう、信じていたかった。」
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