17.

『時間は……僅か…。
決断を…急いで………
あの子の、為に…………。
もう…二度と…………………………』


目を覚ました。
どんな夢を見ていたかは覚えていない。
けれど、なんだろう。
スッキリしないわだかまりのようなものが残ってる。

…カレンダーの日付を見る。
あの日から、10日。

別れを告げる…その時間は、今刻々と迫ってきている。

もう一度カレンダーを見る。
金曜日なのに赤い文字で書かれている。
祝日。学校も休みのはずだ。

………時間がない。

『今日は早く来てほしい』
そんな文面のメールを送って、それからベッドに身を投げる。

…一昨日から、身を起こすだけでも疲れてしまう。
長い時間立っているのも辛かった。
少しでも集中力が切れたら、そのまま倒れてしまいそうなほどに、体から力が抜けてきている。

けど、こんなに弱った自分は見せたくない。
弱ってるって気付かれたくない。

…強がるな、無理するな、なんて松澤さんに今まで言ってきたりしたけれど
やっぱり俺も、人の事は言えない。
だって昨日も一昨日も、強がって平気なふりして……

今まで松澤さんがなぜあんなに無理をして強がっていたのか…
今はわかる。

他人(ひと)に心配させたくなかったからだ…


携帯の着信音が返事が来たことを知らせる。

『じゃあ今からそちらに伺いますね。』
部活は良いのかよ、とか思いながらも
自分を最優先してくれた事に密かに喜んでる自分を見つけて、少し腹が立った。


程なくして、松澤さんがいつものように部屋に来てくれた。
「今日、部活休みなんですよ」
そう言った松澤さんは、なぜか部活の服を着ていた。きっと、俺がメールを入れる直前まで、部活に行く気だったんだろう。…悪いことしたかな?

とりあえずそういうことは気付かなかったふりをして、ベッドに座る俺の隣に松澤さんを座らせる。

さっきまで空が曇っていて薄暗かった部屋は、日が差して少し明るくなった。

「…部活、最近どう??」
そう尋ねてみる。
「…まぁ、みんな前と変わりありませんよ。山脇先輩だって、私だって…何も変わってません。明るく、楽しく…って感じですかね。」
…きっとそれも嘘だ。松澤さんの瞳がそう語っている。
…少なくとも他の奴らは変わってないかもしれない。けど、山脇も松澤さんも、変わってないように見せかけてるだけだ。
周りに、心配させないために。
……それは、俺も同じか…………。

「今朝、やっと外出許可がおりたんだ。」
そう話すととたんに松澤さんの目が輝いた。けど、その輝きはすぐに失われた。
きっと松澤さんのことだ。部活に来てほしいとか考えたんだろうけど、この様子じゃすでに休む報告をしているらしい。報告したのに部活に行くというのは、きっと松澤さんとしては許されない行為なんだろう。
あるいは、本当に部活が休みなのか??
まぁともかくだ……
「どこか行く??」
そう持ちかけると、松澤さんは顔をあげた。
「山脇先輩とか、別な人じゃなくていいんですか?」
「まぁいーじゃん。さて、どこ行くー?」
そう。たまには二人でどこかに行くのも悪くはない。
少し辛いのも我慢しよう。それで松澤さんが心配せずに済むのなら。
………って、俺何考えてんだ?
14/08/02 10:19更新 / 美鈴*

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