ねこのみるゆめ。2.

昨日、俺と松澤さんは、喧嘩をした。
喧嘩…って言うほどでもないけど。
仲違いっていうかなんていうか…

元々悪いのは俺だ。
松澤さんはただ、俺を心配してくれただけなのに。
後輩としての役目を果たしていただけなのに……


きっかけは、昨日あったイベントの準備中。
運搬とかの作業は部員全員でやるんだけれど、
吹奏楽部に男子が少ないからって、俺は沢山の荷物を持たされてこきつかわれていた。

そんな中、俺を見た松澤さんは、
『大丈夫ですか?持ちますよ』
そう言って、俺が持っていた楽器を持とうとした。

運搬作業中だから当然松澤さんも沢山の荷物を持っている訳で…
左手にユーフォニアム、その脇に譜面台を2つ挟んで、その上肩にトロンボーンを下げて。
空いた右手で俺が運んでいるテナーサックスを持とうと言うのだ。

ユーフォニアムは当然重い。
トロンボーンはそうでもないけれど、
テナーサックスもまあまあ重い。

【一年生が積極的に荷物を運ぶこと】
っていうルールはあるけど、さすがに…
『大丈夫。松澤さんだって沢山荷物持ってるしな。』

大変だろ?
そう言って遠慮したのに、松澤さんは退いてくれなくて。

『私が持ちます!
先輩に重労働させる訳にはいきません!』

松澤さんは、俺を手伝いたいという思いで言ったんだろうけど…
俺はその言葉で何かが切れて。

『俺は仮にも男子で先輩だぞ!?
なんで女子の後輩、しかもチビに心配されなくちゃいけないんだよ!
これは俺が持っていく!』

『…………。』

『………あ…。』

チビはさすがに言い過ぎたかも、言い終わってからそう俺が思った途端、松澤さんは泣きそうな顔をして、

『…そうですよね。すみません。』
そう言って、どこかに行ってしまった。


いつも話しかけてくれた松澤さんは、その日、俺に話しかけることはなかった。


松澤さんは、俺を手伝ってくれようとしてたのにな……
松澤さんを傷つけるなんて、なんて俺、馬鹿なやつ。



普通ならもう死んでいるだろうに。
なんでこんなに長い間、生きていられるんだ……?

けど…
少しずつ、何かが近付いてきている感じはする。

……死ぬなら早く死にたい。
霞む視界で、道を睨んだ。



…自転車の走ってくる音がする。
誰だろう……?


少し目線を上にやると、誰かが俺を見つめていることに気がつく。
けれど、視界が霞み過ぎて、誰かはわからなかった。

『………っ!』
息を飲む音が聞こえた。

カチャ。
携帯を開ける音。

『もしもし!?大至急救急車を……
え?場所ですか?N町2丁目のー』

この声は。

松澤…さん…?

『はいっ!お願いします!』

松澤さんは携帯を閉じると、俺に問いかけた。

『先輩………ですよね?
もしそうなら…返事してください…』

『……松澤さん、だよな………?』
声が、うまく出ない。
出そうとしても、かすれるばかり。

『……お願いですから……何か言ってください、先輩……』

……やっぱり聞こえてなかったか。
ごめん。これ以上に大きい声とか無理。諦めて……。


ぽたっ。
何か、暖かいものが降ってくる。

雨…?
違う、これは……

『先輩……お願いですから………』

松澤さんの……涙…?

松澤さん……泣いてるのか……?


ふと、目の前の人影が消えた。
と思ったら、松澤さんに抱き締められていて…

『……先、輩………お願いですから……何か言ってくださいよ……先輩……』

…やめろよ。
俺はそんな抱き締められる柄じゃない…
…制服、血だらけになるだろ…?
ほら
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