「お話」29.
「【この手紙が、きっと最後になると思う。
俺は、この世から一旦消える。
けれど、またきっと戻ってくる。必ず。
松崎さんに、俺のこと覚えておいてほしいっていったけれど…
俺のせいで松崎さんも苦しむのはもう嫌だから…
これで、終わりにしよう。
俺たちのことも、全て。
忘れてくれ…】
『え…!?』
手紙が…どんどん消えていく…
端から綻びて、こぼれ落ちて…
光になって、消えていく…
【俺のいた証拠は全て消すつもりだよ。一応。
せっかく消した記憶がそれを見て戻ったりしたら、やった意味がないからな…】
そんな…!
私は、忘れたくない……!
先輩と過ごした幸せだった日々を忘れたくない………!
【俺だってこんな最後を望んだ訳じゃない。
けれど、俺はもう…松崎さんの悲しそうな顔を見たくないんだ…
ごめんな。わがままで…】
『わがままにも度が過ぎますよっ!
私は…先輩のこと覚えていたい…!』
そう私が文句を言うと、それまで書かれていた文字はすぅ、と消えて。
代わりに、違う文字が次々と記されてゆく。
【……泣くなよ、松崎さん。
そんな顔見たくないって言ったばかりじゃないか…
松崎さんはいつものように、笑っていてよ。】
『え…』
いつの間にか流れていた涙が頬を伝った。
【…記憶を消す前に、一言、言っておきたい事があるんだ。
俺は…
松崎さんが、好きでした。
命のない今の俺には
この想いを過去形にすることしかできない。
けれど、またいつか出会うとき。
きっとまた、二人で笑いあえて、
幸せに過ごせたらいいなって思うから。
俺のこと…
好きになってくれて、ありがとな。
松崎さんの想いに答えられなくて…ごめんな。
さよなら…また、会う日まで。】
最後の文字が記された途端、
手紙が強い光を放って、
部屋全体を包んだ。
遠ざかって行く意識の中で、
私は必死に叫んだ。
『嫌だ……!忘れたくない!
忘れたくないよぉ!!』
先輩と過ごした日々。
幸せだったこと、悲しかったこと。
忘れたくない………!
忘れられる、もんですか………!
『嫌だ……嫌だぁ!!!!』
そして、全ては忘れられた……」
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